食&酒

2023.10.05 11:45

食文化の力で海を守る。オリヴィエ・ローランジェ氏に聞く

鈴木 奈央
──食文化という言葉がありましたが、今、各国の独自の食文化が危機に瀕していると感じているそうですね。

我々フランス人も、大規模な工業生産の食に依存してしまったという問題があります。第二次世界大戦後、アメリカをモデルにしたスタイルを進歩だと思ってしまった。つまり、週末にスーパーに行って、カゴにいっぱい食材を入れるようになったのです。

そこでは、油、塩、砂糖、化学香料、着色料などをたっぷり使った加工品が、野菜や魚、肉などの生鮮食材よりも安く売られています。そもそも、加工品が安いということは、材料を買い叩いて安く仕入れていて、生産者の首を絞めているということ。また、こういった食品をとりすぎることにより、添加物によるアレルギーや病気も増えています。

われわれシェフが、「正しく食べるとはどういうことか」を伝えるアンバサダーにならないといけない。同時に、政府に対して「正しく食べることを子供に教えないといけない」と伝える義務がある。環境だけでなく、食文化を守るという意味でもです。世界中のスーパーのどこも同じものを売っている、というのはおかしなことでしょう?

海の問題だけでなく、陸上の問題も然り。過去20年の間に、食べることができる野菜やハーブなどの75%が失われてしまいました。例えば、昔はパクチョイ(チンゲンサイ)だけで20〜25種類あったのに、今は1種類しかない。1種類しかなければ、気候変動のなかでその種が生き残ることは難しいでしょう。それは、農家にとっても我々にとっても悲劇的なことです。

──現在の状況は、例えば、産業革命により人口が増え、効率の良い品種を選ばざるを得なかった、とは考えられますか? あるいは、食料不足に対応する一つの方策であると……?

効率を高めるのは良いことだと思いますが、現在の姿が理想的だとは思えません。殺虫剤や除草剤、化学肥料を使用する慣行型の農業は、効率のみに偏って利益を得るために、地球を汚してしまっています。一方で、自然を害することのない有機栽培も実は効率的な農法なのです。

──例えば、 収量の多い改良種への栽培変更は、現在の人口をまかなうために必要なのではなく、全部有機でもそれは可能なのでしょうか?

認定を受けているかどうかは別として、現在、世界の70%の農業が実質的には有機栽培で、慣行栽培は30%だけ。50年ほど前から慣行栽培が急激に広がってきたのです。慣行栽培を続けると、次第に化学肥料を入れないと収穫できない土になってしまい、より多くの化学肥料を使うことになる。徐々に土の力が弱っていくのです。
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文・写真=仲山 今日子

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