マダガスカルがその例です。もともと米を栽培していたけれども、インドから米を輸入した方が安いから、米栽培をやめてカカオに転作した。そのせいで飢餓に苦しんでます。大事なのは、それぞれの国が自分たちはどうやって食べ物を作ってきたかに戻ることでしょう。
──現状では慣行栽培は30%だとすると、それが100%有機栽培になったとしても、地球上の人口を賄うのに十分でしょうか?
もちろんです。完全に昔の栽培方法に戻るべき、というわけではなく、今の科学の知識の力を借りれば、循環型農業は、慣行農業よりも多く収穫できるということです。世界中に成功例はたくさんあります。人口が増えるから、慣行栽培で収量を上げないと、という考えは間違いです。
──日本でも「シェフズ・フォー・ザ・ブルー」などの活動で、海の多様性を守る活動が始まっています。代表の佐々木ひろ子さんによると、世界の海水魚1万5000種類のうち、3700種類が日本にいるそうで、トップシェフの間でも、未利用魚の活用が広がってきています。一方で、フランス料理の世界では「魚には格があるので、伝統的に高級魚だとされてきたのではない魚を提供するのは失礼」という考え方があると聞いたことがあります。
それは昔の考え方です。そもそも、昔は冷蔵する手段がなく、パリに運ぶまで時間がかかった。だから冷蔵しなくても劣化が少なく、内陸まで運べる魚が高級魚だったのです。今は冷蔵輸送ができる。獲れたてで美味しい魚はいくらでもあります。
──そう言った魚の質の向上に、日本の活け〆の技術も貢献していると聞きます。日本や日本人から学んだ漁師さんたちがフランスで自分たちで始めているとか。いつ頃からフランスで主流になり始めたのでしょうか?
うちの店では6~7年前から始めて、今は使っている魚の3分の1が「イケジメ」です。例えば、イケジメで処理したリュージョーヌという魚はスズキより美味しいし、イエローポラックという魚はタラよりも上品です。
イケジメの技術が入ったことで、鮮度が落ちやすい魚が食べられるようになりました。タコやアジなど、それまでレストランのメニューに載ってこなかった魚が提供できるようになり、選択肢は広がったと思います。日本のおかげですね。