食&酒

2023.10.29

「ワニ」や「サンドワーム」を提供、ベトナム五つ星ホテルの挑戦

(写真中央)「アクナ」のシェフ サム・アイスベット氏

少し前まで、高級ホテルのメインダイニングといえば、フランス料理やイタリア料理、日本料理や中国料理が定番だった。そんな常識がいま、変わりつつある。

ベトナム・ホーチミン市。2022年のベトナムの経済成長率が8.02%を記録し、地元のニュー・リッチ層が形成されるにつれて、この街はモダンな美食の新しいマーケットとして徐々に注目が集まり始めている。

そのメコン川のほとりに建つ5つ星ホテル「メリディアン・サイゴン」で、2年前にこのホテルを買い取ったオーナーが、高級ホテルにこれまでなかったスタイルのレストランを生み出した。その名は「アクナ」。客席からも望めるメコン川にちなみ、ベトナム語で「水の流れ」という意味だ。

シェフとして白羽の矢が立ったのが、オーストラリア人シェフ、サム・アイスベット氏だ。

オーストラリアで“ミシュラン三つ星”に並ぶグッド・フード・ガイドで「3ハット」をとったレストラン「キー」のヘッドシェフを経て、シンガポールに拠点を移し、モダンオーストラリア料理「ホワイトグラス」のエクゼクティブシェフに就任。日本の技術も使った、アジアのアクセントの効いた料理を提供し、ミシュラン1つ星、アジアのベストレストラン50にもランクインする人気レストランに育て上げた。

他のアジアの国々からも引く手あまたなシェフが、なぜベトナムという、まだ美食の文化が確立していない国を選んだのか?

「ベトナムにはただ旅行で訪れたのですが、その際にホーチミンの活気に魅了されました。経済成長が続く中、世界の著名シェフたちが店をオープンする予定があるという業界の噂も聞きました。それならば、先んじてここで挑戦するのが面白いと思ったのです」

それに加えてアイスベット氏を魅了したのが、地元の食文化だ。

「市場を回ってみて、オーストラリアと似た食材があることに気づきました。緯度が近いからかもしれませんね。例えば、ワニ肉。鶏肉のような味わいで、オーストラリアでも一部のレストランでバーベキューやステーキなどに使われます。それから、オーストラリアの海岸でよく見かけた、サンドワーム。オーストラリアでは一般に食べられていないのですが、ベトナムでは干してフォーの出汁にする文化がある。これを使ってみようと思ったのです」

あまりにもエキゾティックな食材だが、ホテル側は「地元で使われているユニークな食材を洗練された形で提供したい」というアイスベット氏の思いに共感し、納得したという。

ベトナムでは、ワニ革のための養殖場があるため、その肉を食べる文化があり、市場などで売られてはいたものの、「ゲテモノ」というイメージも付きまとっていた。

これをアイスベット氏は、「ワニ肉は高タンパク低脂肪で、ヘルシーな肉でもある。しかも、革をとった後の身を食べることはサステナブルでもある」と、人々の先入観を変えていこうとしている。
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文・写真(一部)=仲山今日子

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