食&酒

2023.12.10 19:00

白トリュフに魅せられた人々 「白い宝石」が日本に届くまで

シェフのルカ・ファンティン氏とトリュフハンターのシルバーノ・ロベタさんとその愛犬

義父がトリュフ狩りをしていたことから、その「猟場」を受け継ぐ形でトリュフ狩りを始めたロベタさん。行き先も分からないままに、ロベタさんの車の後を追い、到着したのは山の麓。そこからゴロゴロした石が転がる急傾斜の山道を登る。還暦を過ぎたロベタさんに、ついつい遅れをとる。山道の先には雑木林があり、棘だらけの木がゆく手を阻む。まるで、童話に出てくる魔女が棲む森のようだ。
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道はなく、迷うことはないのかロベタさんに尋ねると、「山の形や太陽の位置」で場所を把握しているとのこと。自然と共生した達人だからこそ、その場所を見つけられるというわけだ。

20分も歩いただろうか、そんな森の中で、ロベタさんが立ち止まる。傍目から見るとただのうす暗い森の中だが、いつも白トリュフが見つかる場所なのだという。

「トリュフ、トリュフ、トリュフ」とも聞き取れるような音で呼びかけると、2頭の愛犬が辺りを駆け巡り、辺りをかぎ回る。信頼関係に結ばれたロベタさんと2頭が、まるで会話をしているように見える。しばらくしたところで、一頭が倒木の傍でぴたりと止まり、地面を掘り返した。トリュフが見つかったのだ。すぐにロベタさんが犬に褒美のおやつをあげ、丁寧にその場を掘り出した。

トリュフは地下70cmもの深さで見つかることもあり、傷つけないよう、忍耐づよく掘り出す必要がある。もうすぐですよ、とロベタさんがいい、一握りの土を渡してくれた。白トリュフがある場所では、土も白トリュフの芳香がするのだ。ファンティン氏は「掘ってみてください」と金属のヘラのようなものを渡されて掘り始める。今回は1時間ほどで、ピンポン玉くらいのサイズのもの、2つが見つかった。
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ロベタさんと別れ、買い付けの現場に同行させてもらう。どちらかといえば年配の方が多いが、世代も性別も様々なハンターたちが、それぞれに白トリュフを持ち寄る。パリゾット氏は、車のトランクの部分をテーブル代わりに、重さを調べるだけでなく、虫やナメクジに食われていないかなど、状態を素早く確認して価格交渉をしてゆく。

この日は私たちが同行していたために訪問箇所は少ないとのことだったが、10カ所以上を訪れた。これだけの白トリュフを一度に見るのは初めてで、大きさだけでなく、トリュフ色、形、そして状態や香りまで、すべてが異なる、その多様性を知ることができた。

この白トリュフを国内外のレストランに届けるのも、仲買人であるパリゾット氏の役目だ。パリゾット氏も、元々はトリュフハンター。16歳の時に、飼い犬の散歩中にたまたま白トリュフを見つけ、家の近所のレストランに売り出したのがきっかけだった。レストランからもっと多く欲しいと声がかかり、他のハンターから買い付けるように。高校を卒業後、本格的に仲買人としての仕事を始めるようになったという。
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文・写真=仲山 今日子

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