食&酒

2023.10.28

バンコク「ハオマ」 フードトラックで旅したシェフが辿り着いた答え

バンコクのレストラン「ハオマ」のディーパンカー・コースラ氏

車はバンコクの高層ビル群を抜け郊外の農場に向かっていた。遠くで野焼きが行われているのを見て、ハンドルを握るディーパンカー・コースラ氏が残念そうにつぶやく。

「タイでは、遺伝子組み換えにより90日で収穫できる米が推奨され、四期作が可能になったのです。ただそれでは土地が痩せて、化学肥料や農薬に大幅に頼る農業になってしまう。収穫毎の野焼きの回数が増え、大気汚染にもつながります」

コースラ氏がオーナーシェフを務めるモダンインド料理「ハオマ」は、そんな現状に歯止めをかけたいという思いで設立されたレストランだ。

バンコク中心部に2017年にオープンした同店は、自家農園を持ち、食材を無駄なく使い切るアプローチが注目を集めている。2021年の「世界のベストレストラン50」では、社会に良い変革をもたらす人や取り組みを表彰する「Champions of Change賞」を受賞している。

到着した農場は、コロナ期間中の2020年に、ビジネスパートナーの親戚が持っていた田んぼを30年の契約で借り受けたもの。広さは5エーカーで、一部は田んぼとして残し、ホンリムと呼ばれる伝統品種の米を育てる。ほかは、フレッシュなクミンの葉などを育てる畑や果樹を植えたパーマカルチャーの農場にし、1500羽の鶏と4頭の山羊を育てている。
 
生き物を育てることにした理由は、バンコク近郊の卵の生産工場を見に行って衝撃を受けたからだという。「狭い場所で、穀類などの餌をついばむこともできず、必要なカロリーと栄養素が入った液体を飲むだけで暮らす。それを自分の店で出すことはできない」。

今、コースラ氏の農場で放し飼いにされている鶏1羽あたりの土地は、オーガニックの通常規定の1平方メートルの5倍となる5平方メートルで、鶏たちは木に止まったり、木陰で休んだり、熟して落ちた果実を食べたりと、各々好きに暮らしている。

色も大きさもさまざまな卵を見せながら、「同じ品種の鶏でも、食べたものによって殻の色も変わってくる。紫がかった色の殻のものは、紫の色素を含んだサクランボが実っているので、それをたくさん食べたからでしょう」とコースラ氏。採れた鶏卵の一部は、趣旨に賛同してくれた友人・知人のレストランに販売している。

フンなどは農場の肥料に還元され、循環型の農業が営まれている。「人里離れた場所にレストランを作るのもいいけれど、都心に店を作り、近くに農場を作ることで、ファームトゥーテーブルの見本にしたい」と考えている。
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文・写真(一部)=仲山今日子

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