瀟洒なガラス張りの一軒家レストランで、建物に入る前の屋外にテーブルが設けられ、今日の食材が紹介される。チェンライのカカオ、プーケットのロブスター、ホアヒンのキャビア、自家農場からの卵やマンゴーなど、地元でとれたものばかりだ。生姜を発酵させた自家製ドリンクと共に、この日のコースに使われた食材の端材を集めたタルト形のアミューズをいただく。
このアペリティフは、大型のプランターで40種類のハーブが育てられている庭を眺めたり、パネルで展示されている店のサステナブルなアプローチについて知ったりする時間だ。
店には、雨水を貯める4つのタンクがあり、一部はフィルターをかけて飲用水としてゲストに提供するほか、別のタンクの雨水は魚の水槽に使われ、魚のフンや餌の食べ残しの含まれた水が庭のプランターに流れ、植物の栄養になるようにするなど、カーボンフットプリントの減少に貢献している。
「美味しい料理を求めてきたゲストが、少しでもサステナブルな社会のあり方について考えるきっかけになってくれれば」
そう語るコースラ氏は、ガンジス川のほとりの聖地として知られるバラナシから西に130km、ヒンズーの神話では「大地が生まれた場所」として知られるインド北部のアラーハーバード出身。
「生まれ育ったのは、今年初めて信号ができたほどの田舎。両親はベジタリアンで、母は近隣の農家でとれた野菜を買って、その時にあるもので料理を作っていた」という、自然がその時に与えてくれたものを食べる暮らしを送ってきた。
インドの高級ホテルITCグループなどで経験を積んだのち、2014年にバンコクのホテルに転職。2年間ホテル内の炭火焼きのレストランのシェフとして働いたのち「旅に出て自分の料理を見つめ直したい」と、良い待遇を捨ててフードトラックを始めた。
環境に配慮して、天然ガスを燃料とし、ソーラー発電も備えたトラックを自らデザイン。バンコクからベトナム、カンボジアなどを周った。「食事はトラックで出した余りを食べて、トラックで寝泊まりした」という生活で、1年間で開業資金3万ドルを蓄えた。