インテリア業界が「新しいラグジュアリー」の宝庫である理由

Courtesy Salone del Mobile.Milano


ミラノサローネに見られる新しいラグジュアリーの顕在化、マリア・ボッロ会長の「勢いで変化を求めない」地に足の着いた姿勢、各スペースに複数の機能と意味を持たせるようなゾーニング。洗練された「新しいラグジュアリー」の世界観の提示と受け止めました。


Courtesy Salone del Mobile.Milano

インテリアはファッションのように早いサイクルで動かないだけに、拙速に流行には乗らず、自分たちの分野にあったやり方を守り、強固にしていくことが最善、と見極めているボッロ氏の姿勢に、気負いのない「新しいラグジュアリーの担い手」像を見る思いがします。

納得感と学びは大きいものの、それに呼応する最新の具体例やふさわしい考察を提示できるかというとそれは別問題で、今の段階で生半可にインテリアデザインとファッションの関係に触れても意味のある言葉を残せそうにもありません。

そこで今回は、安西さんが提示された「新しいラグジュアリーは、実は最新流行の戦略とは距離がある」という真理を重く見て、ここにピントを合わせ、この真理に違う方向から光を当てて考えてみることにいたします。

最近、「地域ブランド」「国ブランド」を支える魅力について取材しているのですが、私が「これは新しいラグジュアリーの世界観に近い」と知覚するものを表現している地域が、ほぼこの真理を踏襲してます。戦略的にラグジュアリーを創って話題を振りまくような振る舞いをするのではなく、むしろその逆。「昔からやっている地味なやり方を守って続けている」ことで、結果的に時代の先頭に立っている、というパターンが目立つのです。

たとえば、フィンランド。世界で最も幸福な国ランキングで五年連続一位という「幸福な国」のイメージを背景に、東京・表参道にはフィンランドのライフスタイル企業が5ブランドも集中し、店舗を展開しています。Iittala(イッタラ)、Marimekko(マリメッコ)、Lapuan Kankurit(ラプアン カンクリ)、Nikari(ニカリ)、そしてWoodnotes(ウッドノーツ)です。

Marimekko(マリメッコ)

フィンランドにおけるラグジュアリー観を知るべく、フィンランド大使館の商務官ラウラ・コピロウ氏にインタビューしたことがあります。彼女の話を聞けば聞くほど、フィンランド人が昔から実践していることが、新しいラグジュアリーの知覚に重なってきます。

まず、フィンランド人がラグジュアリーとみなすのが、非日常的特別感ではなく、「美しい毎日」であるということ。毎日の生活体験の積み重ねこそ重要と考えているので、水を飲むグラス、肌に触れるタオルこそ上質なものを使うのです。この考え方にのっとり、小学校で使う机や椅子にも高品質なものが使われています。日々、美しいものに囲まれることが根本的な幸福感につながると考えるそうです。

そんな風に考える理由は気候にある、とラウラさんは語ります。夏は白夜の時期ですが、冬は太陽が出なくて暗く、家で過ごす時間が長くなります。だから、家にいる時間を幸せにするために家具やインテリアを美しくしてきたという歴史があります。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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