インテリア業界が「新しいラグジュアリー」の宝庫である理由

Courtesy Salone del Mobile.Milano


ファッションのコングロマリットのインテリア部門が規模と資金力にものを言わせて、積極的に拡大路線をおしてくる傾向にあります。しかし、インテリア業界は規模が大きくても従業員300〜500人といった中堅以下のサイズで、家族経営でやっているところも多いので(ポッロ自身が家業の家具メーカーのマーケティングマネージャー)、他分野の路線に沿うことが足をひっぱる可能性も高いわけです。 

ぼくは、ここで一つのことに気がつきました。ポッロは30代後半の女性です。ミラノのブレラ国立美術学院で舞台美術を専攻しました。2006年トリノ冬季オリンピックのプロジェクトにもかかわった経験があり、その後に家業に入ったのです。ともすれば体質が古いと思われがちな分野で、「流行りの経営に安易にのるまい」と確信をもてるのは、彼女自身がこの業界では若くしてリーダーになっているからではないかと感じました。

若い人を組織のトップにしようとするのは、変化のスピードについていくため、最新の経営手法を取り入れるためと思われる傾向にありますが、別の方向もあります。上の世代だと、「時代に乗り遅れていると思われないように、先端と言われるところにのっておこう」と焦りますが、若いリーダーはそのような無用な「素振り」がいらないのかもしれません。

美大卒の彼女は、アートのトレンドという別の指標ももって社会の動向をみています。だから、他の分野でスピード経営やスケールアウトが叫ばれるなかで、「いや、これまでの我々のビジネス戦略が好都合な風向きになってきたのではないか。じっくりと考えるべき」と堂々と言えるのでしょう。


サローネ会場(Courtesy Salone del Mobile.Milano)

新しいラグジュアリーが向かう方向には、サステナビリティやインクルーシブのテーマが当然のようにあり、企業の社会的責任は今後、さらに強く問われるようになります。モノが高品質で美しいことと同様に、このような要素が重視される時代に、必ずしも規模優先ではないと確信でき、それを語れるのは、新しい世代の動向を熟知しているからではないかと想像します。

イマドキの流行りの経営戦略ロジックは、思いのほか、新しい世代の主流とは距離があります。ここに落とし穴があります。ポッロは新しいラグジュアリーとは、流行りのロジックとは違うところを向いていると分かっているからこそ、勢いでの変化を求め過ぎず、今ある業界の特質を無駄に壊さないのが良いと思っているのです。
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文=安西洋之(前半)、中野香織(後半)

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