しかし、今年60周年のサローネを見学して思ったのは、新しいラグジュアリーの顕在化です。
S.Projectと呼ばれる実験的な試みを展示するゾーンにラグジュアリーの空気を感じました。その近くにはさまざまな自然と素材の関係をみせるゾーン、隣にはフードコートや書店が並んでいます。その書籍コーナーもデザインを挑戦的に問うような深みのある本が並んでいました。そして、上記のサローネとアルタガンマが主催するトークスペースは、このゾーンにあったのです。
ダルピツィオによれば、この10年間をみてもデザインは毎年数パーセントの成長を着実に遂げてきました。しかし、ファッションやクルマなどのような急カーブの伸びはない。これが逆に良くも悪くも特徴になっています。
背景としては、企業サイズが比較的小さく、大きく市場をとりに行くのが難しい。あるいは他の産業が伸びている主要市場の中国でまだデザインが大きく飛躍する土壌ができていないと想像する、と語っています。
ハイエンド家具領域の市場の25%は、イタリア企業によって占められています。とすると、この業界のラグジュアリーの特質がイタリア企業のそれと極めて共通点が多いはずです。
サローネ会場(Courtesy Salone del Mobile.Milano)
7月はじめ、ミラノのスフォルツェスコ城に近いサローネのオフィスで、会長であるマリア・ポッロにインタビューしました。冒頭、「我々の業界にはさまざまなタイプの企業があります。そのなかにハイエンドと位置付けられるものや、ファッションメーカーのインテリア部門などもあります。クラシックもこのカテゴリーに入ります」と全体図を示してくれました。
そのなかで、ブランドを強調する排他性の強い路線が必ずしも市場にとっての正解ではないとも話します。規模拡大を優先し、短期的利益を追うマーケティングの重視、中間業者排除といった、他分野で進行中のイマドキの戦略に「追いつく」のが適切なのか、深く考えている様子が窺えます。
家具はその商品性格上、世代を超えて使われることが多いです。また購入の決定についても不動産購入に際しての慎重さの延長線上にあり、中間業者によるアドバイスが有効です。製造プロセスにおいても職人技が要求され、量産という時の想定数が、ファッション業界などと比べると圧倒的に少ないでしょう。そして、生産地にある文化とのつながりがより強いです。