日常を美しく暮らすために、日用品や公共空間のデザインにこだわる。しかも、100%は求めず、ほどほども認め、「いいよね、これで」という感覚も尊重する。結果として、それが上質なものをみんなで幸せに長く使うサステナビリティともつながっています。
「こういう考え方は戦略というわけではなく、日本人の『もったいない』のように、昔からあった感覚です」とラウラさんは解説します。
首相はじめ連立政党の党首がみな女性でジェンダーギャップが存在しないことも、「自然と共存する」という同じ感覚から導かれてきたのでしょう。つまり、ジェンダーや年齢にとらわれない一人一人の「ナチュラルな」適性を尊重した結果、それにふさわしい役割分担をするようになったと考えられます。
自然と共存する日々を幸福にするサステナビリティの実現、ジェンダーギャップのないフェアな社会の実現が、フィンランドというナショナルブランドを支える魅力となり、その国力が、企業のブランド力を後押ししています。
「新しいラグジュアリー」と親和性の高いこのような世界観が、戦略的に作られたものではなく、フィンランドにもともとあった伝統的な考え方を地味に守ってきた暁に導かれているという点が、なんとも小気味よく爽快です。
もうひとつ、北海道のニセコ町の例を挙げます。
人口約5000人の小さな町ですが、転入する人が増え続けています。ニセコ町役場が転入者に対しておこなったアンケートによると、転入理由として多かった回答が「ニセコだから」。名前だけで人を惹きつける、地域ブランド力が高い町なのです。
ブランド力を支える魅力は多々ありますが、今回のテーマに絞るならば、その一つは、高いSDGs達成度です。持続可能な観光の国際機関「グリーン・デスティネーションズ」のTop100選に二年連続で選ばれていたり、政府から環境モデル都市やSDGs未来都市に選定されていたりします。
この点に関して、ニセコ副町長の山本契太氏は、「SDGsを達成しようと戦略を立てて何か取り組みをしたわけではない」と言います。「昔から地味にごくあたりまえにやっていたことを洗い出して整理してみたら、結果的にSDGsを達成していました」と笑います。
実際、医療や教育といった公共サービス、ジェンダー平等、外国人も自然に溶け込んでいる多様性、景観など、あらゆる要素に無理がなく、自然で活気があり、町を歩いていると幸福感が伝わってくるのです。「転入者の多くは、まずは留学や旅行に訪れ、何度も来るうちに町が好きになり、ついには住んでしまう」という副町長の説明にも納得します。
新しいラグジュアリーというと、なにか時代にあった新しいものを創造し、最新の経営戦略で世界展開するというロジックを期待されたりするのですが、現代にフィットするラグジュアリーを求める人の感覚にあうのは、その方向にはないのでしょう。むしろ、「実はむかしからこうだった」という埋もれたお宝を大切にし、地に足のついたやり方で静かに世に提示する、その誠実さの先に大きな共感と信頼の可能性が広がる世界なのだと実感します。