「タイムトラベル」「瞬間移動」「ブラックホール」について、科学が今説明できること

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残る問題は、ティプラーの円筒をタイムマシンにする方法だ。理屈としては、回転する円筒に近づき、その周囲を何周か回れば、地球に帰って来た時点で、過去に戻っている。何周回ったかで、どれくらい時間をさかのぼるかが決まる。円筒の周囲を回っている間は時間が普通に進んでいるように思えるが、円筒の周囲で時空のゆがみが生じていて、そのゆがみの中では時間が逆行する。例えるならば、螺旋階段を上がろうとしているのに、1段上がるたび、階がひとつ低くなっていくような状況が起きる。

そんなスケールで、それほど巨大な物体を作ることが可能だとは信じられないかもしれない。しかし、これまで作られてはいないティプラーの円筒が、宇宙のどこかに既に存在している可能性もありうる。円筒の存在をめぐっては、熱心な議論が行われている。

例えば、宇宙論で研究されている「宇宙ひも」は、ビッグバンで残った物質で構成されているとされる。このひもは、閉じたループの形でも、宇宙全体に伸びた形でも存在しうる。原子よりも薄いが密度は高く、薄さを1ミリとして計算すれば、重さは10億トンの100万倍になる。

タイムトラベルの可能性を長年研究している人物のひとりに、アメリカの天体物理学者リチャード・ゴットがいる。ゴットによれば、2本の宇宙ひもが特定の角度で高速で動いていると、その周囲に時間のループが形成されるという。

いずれにせよ、タイムトラベルに関していうならば、時間をさかのぼる最も説得力のある──少なくとも、最も突飛さの少ない──方法は、いわゆるワームホールを利用することだ。ワームホールとは時空が奇妙な構造になったもので、その存在は一般相対性理論の方程式で理論的に説明されている。ワームホールは、時空のふたつの場所を結ぶ、一種の橋である。別の次元を通って宇宙の2地域をつなぐトンネルのようなものだ。時間と空間は密接に関連しているので、原理としては、ワームホールの両端の先が異なる時間経過になっていることがありえる。トンネルを抜けた先が、入ったときよりも過去になっているかもしれないという意味だ。


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そのため、こうしたワームホールを通ると、事実上のタイムトラベルをしたことになる。選んだ方向によって、未来または過去に行くというわけだ。ブラックホールはだいぶ観測が進んで多くのことがわかっているが、ワームホールのほうは、残念ながらまだ理論的でエキゾチック(解明されていない)な存在だ。いつか人類がワームホールを作る日が来るかもしれないが、もちろん21世紀の技術ではまったく不可能だ。かなり遠い未来までワームホールの存在は確認されないことも考えられる。
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翻訳=上原裕美子 編集=石井節子

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