「タイムトラベル」「瞬間移動」「ブラックホール」について、科学が今説明できること

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物理学者の多くは、時間のループのことを「反物理学的」とみなしているが、それほど断定的な評価をしない人もいる。相対性理論の枠組みで時間のループを説明する方程式を最初に説いたのはウィレム・ヴァン・ストックムという数学者で、1937年にこれを発表した。ヴァン・ストックムは、高密度で無限の長さがある円筒が何もない空間で急速に回転しているという状況を想定した。このようなシナリオを数学的に記述すると、円筒の周囲の時空領域は強く屈曲し、時間のループが形成されることになる。しかし残念ながら、そんな円筒は物理的には存在しえない。この主張では時空が宇宙の中で奇妙な性質を発揮していることになるが、実際には、宇宙にそのような性質はない。


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1949年には、オーストリア出身の数学者クルト・ゲーデル──アインシュタインと同じくアメリカに渡りプリンストン高等研究所で研究していた──が、別の仮説シナリオを提示した。こちらも一般相対性理論に沿って、時間のループは存在しうるという結論を導いている。とはいえ、当時も今もほとんどの物理学者は、タイムトラベルには論理的矛盾があり、それが実現性を排除する十分な理由になると考えている。タイムトラベルがありうると言えてしまうような、物理法則の理論的な抜け道は、物理法則の理解が進めばいずれ消滅するというのが、大半の物理学者の考えだ。量子力学と一般相対性理論というふたつの重要な理論を統合する量子重力の統一理論が出現すれば、おそらく抜け道は消滅するだろう。目下のところ、そんな「万物の理論」は存在せず、今も研究が継続中だ。

1960年代から1970年代にかけて、一般相対性理論の方程式を解こうとする理論物理学者によって、時間のループは存在しうるとするモデルが数多く発見された。いずれも、回転する物体が周囲の時空をゆがめるとしている。最も有名なのは数理物理学者フランク・ティプラーが提示した説だ。ティプラーは1974年に、ヴァン・ストックムの回転する円筒の理論を発展させた論文を発表した。論文によれば、円筒は長さ100キロメートル、直径10キロメートルで、非常に特殊な高密度の物質でできていなければならない。さらに、光速の半分に近い線速度で円筒の表面を回転させた際、軸にかかる重力で筒が平らにならず、遠心力も相殺するよう、驚異的な強度と剛性を備えていなければならない。ティプラーは、こうした困難さは根本的な問題ではなく、技術が十分に発展すれば克服されるものである、と指摘している。その指摘は筋が通る。
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翻訳=上原裕美子 編集=石井節子

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