「タイムトラベル」「瞬間移動」「ブラックホール」について、科学が今説明できること

Getty Images

こんな例で考えてみよう。1組の手袋があり、片方ずつ専用の箱に入っている。片方の箱を離れた場所に動かし、もう片方の箱は動かさない。動かさなかった箱を開けると、左手の手袋が入っている。だとすれば、動かしたほうの箱には右手の手袋が入っているのだな、とすぐにわかる。

もちろんこの場合は何の不思議もない。あなたは「あちらの箱には絶対に右手の手袋が入っている」ということを知り、それをただ述べているだけにすぎない。量子の世界で扱うのは、手袋ではなく、もつれた粒子だ。粒子が時計回りしながら反時計回りをするという、異なる回転をいっぺんに行うことを、「量子的重ね合わせ」と呼ぶ。ふたつの粒子はこの状態にある。

手元に残した箱を開ける動作は、「量子測定」に相当し、粒子がどの回転に加わるかを「決定」する。同時に異なる方向に回転している様子を目撃することはない。見たことがないのにしているなんて、嘘に決まってる? いや、そんなことはない。量子力学では、量子的重ね合わせが実際に生じることの説明がつくし、実験でも確認されている。

手袋を確認するために手元の箱を開けたとたん、もうひとつの箱に入っている手袋、すなわち粒子は、最初の量子状態と対になる。つまり、同時に異なる方向に回転していた「重ね合わせ」の状態から、最初の粒子の回転と反対の回転をする状態へ、即座に変化する。まるで最初の箱を開けた瞬間に、すぐさまもうひとつの箱に電子信号が伝わり、もうひとつの粒子に「このように回転せよ」と教えているかのようだ。

「量子的重ね合わせ」と「もつれ」という発想から、量子テレポーテーションという発想になること自体は、おそらく自然な展開だ。しかし、そんな移動が実際に実現しうるだろうか。量子テレポーテーションの一般原理では、こう考えられている──ふたつのもつれた量子が、それぞれ離れた場所に位置している。テレポートさせる物体をスキャンして、その物体に関する情報だけを、もつれた量子ペアを通じて、ある地点から別の地点に伝達する。


Getty Images

ただし、原子1個をテレポートさせるだけでも、その量子状態について膨大な情報が必要だ。転送する原子のすべてを知らなければならない。当初、それは単純にいって不可能なことだと考えられていた。ハイゼンベルグの原理ともいわれる「不確定性原理」で、量子システムをスキャンし、どこか別の場所で再形成するために必要な情報すべてを得ることは不可能だとされていたからだ。しかし、特定の情報を量子レベルで即座に転送する「量子もつれ」が、この問題の解決策になる。

さらに補完情報として、粒子を測定した値もあとから伝達される。こうして集まった情報──量子力学の原理に従いもつれを通じて転送される情報と、それとは別に光速で伝達されるスキャン結果──をもとに、移動先の場所で、該当する素材を使って、物体が再形成される。
次ページ > 現代の量子テレポーテーションの概念の誕生

翻訳=上原裕美子 編集=石井節子

ForbesBrandVoice

人気記事