「タイムトラベル」「瞬間移動」「ブラックホール」について、科学が今説明できること

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しかし、テレポーテーションという発想を世界中の人々に最も浸透させ、最も長く作品として表現してきたのは、SFシリーズ『スタートレック』であり、宇宙船エンタープライズ号に搭載されていた「転送装置」だろう。登場人物がテレポーテーションの前に言う台詞、「チャーリー、転送を頼む」は、ほとんどの人が知っているフレーズになった。『スタートレック』シリーズの生みの親であるジーン・ロッデンベリーが、1960年代半ばにこうした装置を思い浮かべた背景には、映像の特殊効果をできるだけ少なくしたいという思惑があった。登場人物が特殊な装置に入り、次の瞬間には惑星にいるという見せ方にすれば、エンタープライズ号からシャトルに乗り込んで惑星に降下するという描写よりも、かなり安価で簡単に撮ることができるからだ。


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これらはもちろん全部空想の物語だ。しかし、実際のところ科学は、テレポーテーションについてどう考えているのだろう? モノをある場所から別の場所へ、その2点の間の距離を移動させずに移すと言われれば突飛に感じるかもしれないが、実際のところ、決して不思議な話ではない──もちろん、量子の転送というレベルにまで話を掘り下げれば、という条件だが。量子力学で「トンネル効果」と呼ばれるプロセスでは、電子などの亜原子粒子が、──地点から別の地点へ移動する十分なエネルギーを持たないにもかかわらず、その区間を「ジャンプ」する。

ボールを壁に向けて投げるという例で考えてみてほしい。ボールが壁の前で消え、壁に何の影響ももたらさず、壁の向こう側で出現する。これは超常現象ではない。それどころか、太陽の光が届き、それゆえに地球上の生命が維持されているのも、水素原子がトンネル効果で結合できている──乗り越えられないと見られる壁があるにもかかわらず──からなのだ。

しかし量子力学には、さらに不思議で奇異な概念として、これまでに繰り返し実験で確認されている「もつれ」というものがある。別々の場所にあるふたつ以上の粒子が結合しており、片方に対して観測や操作を行うと、離れたもうひとつのほうにも同様の効果が同時に生じるという状況だ。光速度が不変であるとするアインシュタインの相対性理論とは、矛盾するように思われる。

これは量子力学において、もつれた粒子は単一のシステムの一部である、という事実で説明されている。個別のものとしては行動していないという意味だ。
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翻訳=上原裕美子 編集=石井節子

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