「タイムトラベル」「瞬間移動」「ブラックホール」について、科学が今説明できること

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1993年にはIBMに所属する物理学者チャールズ・ベネットの指揮のもと、各国から集まった6人の科学者が、量子もつれを通じて離れた位置にある粒子の状態を転写できることを初めて実証した。こうして、現代の量子テレポーテーションの概念が誕生したのである。研究はその後も続けられ、年月をかけて、原子の数を増やした実験も数多く実現した。ただし問題がある。少しの光子や、ひとまとまりの原子(絶対零度に近い温度で冷却した気体として)であれば転送可能なのだが、量子もつれを使って、人体を構成している無数の原子の結び付きを説明する膨大な情報を転送するのは、当然ながらそれよりもはるかに難しいことなのだ。

量子テレポーテーションの本質とは、もともとの物体の複製を作るということではない、という点もぜひ指摘しておきたい。ひとつの粒子に関するすべての情報を量子レベルで転送するということが、その粒子を送るという意味になる。必ずしもオリジナルの粒子を物理的なレベルで移動させるとは限らない。

物体が瞬間移動するというなら、それはAという地点で破壊された物体が、Bという地点で再び作られるということだと理解しなくてはならないが、最近の予備研究では、物体そのものの量子テレポーテーションの実現性も示されている。

とはいえ、『スタートレック』の登場人物たちが使っていたようなテクノロジーが普及するのは、おそらく数世紀先のことだろう。

タイムトラベルと「時間的閉曲線」


テレポーテーションという発想の科学的根拠が量子力学、つまりはきわめて狭い距離でも物質構造に関する理論であるとすれば、タイムトラベルという発想の根拠となっているのは、きわめて遠大な距離の宇宙について説明する理論である。アインシュタインの一般相対性理論だ。


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この理論は現時点において、空間と時間の性質に対する最も正確な説明である。その理論がタイムトラベルの可能性を完全に排除はしていないという事実を考えれば、私たちがこの話題を真面目に捉えるのもおかしなことではない。一般相対性理論の前提として、時間と空間は、物体の影響下でゆがみが生じるのである。

さらに、一般相対性理論の方程式では、ブラックホールやワームホールといった非常に奇妙な時空領域の存在も成立しうる。タイムトラベルというテーマに最も関連性が高いのは、「時間的閉曲線」の考え方である。閉じた世界線がゆがんだ時空を通ると、その結果として時間が同じところに戻ってしまう。この線をたどっているときは、自分にとっては時間が普通に進んでいるように思えるが、終着点まで来ると、出発する直前に戻っていることに気づく。そのため、事実上、時間を逆行したことになる。タイムトラベルの発想は、ほとんどの場合、こうしたループが理論的根拠となっている。
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翻訳=上原裕美子 編集=石井節子

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