ロシアのプーチン大統領は20日の復活祭(イースター)に合わせたウクライナとの停戦を一方的に宣言した。21日午前0時までの30時間、すべての軍事行動を停止するとした。だが、ウクライナのゼレンスキー大統領は21日までの24時間で、ロシアによる停戦違反が2935回に達したと主張。ロシア国防省も20日、ウクライナ軍がロシア側に400回以上砲撃したと主張した。
プーチン氏は19日にゲラシモフ参謀総長から戦況報告を受けた際、同日午後6時からの「30時間停戦」を指示した。陸上自衛隊中部方面総監を務めた山下裕貴千葉科学大学客員教授は「停戦までの時間が短すぎる。特にロシア軍は中央集権的で、ある程度の権限を普段、指揮官に預けていない。どんなに急いでも、命令の下達には、幕僚間の認識統一や部隊との調整など参謀本部と方面軍、諸兵連合軍で最大約4時間、軍、軍団、師団か旅団、連隊、第1線で各2時間、すべて合わせて20時間はかかる。実際に戦闘をしている部隊に伝えるわけだから、通常は停戦までに4~5日は必要になるはずだ」と説明する。そのうえで、山下氏は「おそらく、ミサイルやドローン(無人機)、戦闘機からなる長距離投射部隊にだけ、停戦を命じる結果になったと思う」と語る。
では、なぜプーチン氏は不完全な停戦命令を出したのか。山下氏は「プーチン氏の対トランプ米政権外交とロシア国内向けの意味がある」と分析する。トランプ米大統領は18日、記者団に、ロシアとウクライナのどちらかが停戦を難しくしている場合「我々は手を引くだろう」と述べ、進展を見せない停戦協議に対するいら立ちをぶつけた。山下氏は「プーチン氏は恒久停戦に応じる姿勢を見せることでトランプ氏の印象を良くしたかったのだろう」と語る。実際、トランプ氏は20日、自身のソーシャルメディアで、「ロシアとウクライナが今週に(停戦交渉で)合意を結ぶことを願う」と述べた。
また、ゲラシモフ氏の戦況報告によれば、ロシアは南部クルスク州でウクライナ軍の占領地をほぼ取り戻すことに成功した。山下氏によれば、激戦地のウクライナ東部4州の現在の状況は「ロシア軍がじりじりと押している状況」という。山下氏は「プーチン氏は今、急いで停戦する必要を感じていない。トランプ氏の関心をギリギリまでつなぎ留めている間に、クルスク州の被占領地の完全奪還や、ウクライナ占領地の拡大を目指すつもりだろう」と指摘する。