欧州

2025.04.24 09:00

1930年代末に重なる世界、欧州は歴史的な軍備増強を実現できるか

Shutterstock.com

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アンドリウス・クビリウスは今日の欧州について考えるとき、それを1930年代末の米国に重ね合わせている。リトアニアの元首相で現在は欧州連合(EU)欧州委員会の防衛・宇宙担当の欧州委員を務めるクビリウスは、両者の間に多くの類似点を見いだしている。当時の米国は、ナチスの侵略に対する緊迫感に欠けていた。兵員や兵器の予備は少なかった。軍需産業は長年の投資不足によって弱体化していた。メーカー各社は、将来の受注への不安から生産能力の拡大をためらい、資金も不足していた。

1940年代初頭、こうした無関心と無為無策に敢然と立ち上がったのが、フランクリン・D・ローズベルト米大統領だった。ローズベルトは「勝利計画(Victory Program)」と呼ばれる歴史的な軍備増強策を打ち出した。それから80年後、西側の民主制諸国は別の形の全体主義的侵略に直面しているとクビリウスは危機感を示す。だが、当時の米国にそうした軍備増強ができたのなら、現在の欧州にもできるはずだし、またそうしなくてはならないとも考える。「私たちにも同じ責任があります」とクビリウスは最近、自身のウェブサイトへの投稿に記している。「私たちの『勝利計画』を策定し、実行する。これは私たちの道徳的な責務です。孫たちも平和に暮らせるように」

クビリウスは、EU首脳が3月に全会一致で原則承認した野心的な戦略「欧州再軍備計画/2023年に向けた準備(ReArm Europe Plan/Readiness 2030)」の立案者のひとりだ。ロシアを敵味方どちらと考えているのか、多くの人にとってもはや明確でなくなっていると思われるいまの米国と異なり、欧州でこの取り組みの必要性に疑問を持つ国はほとんどない。クビリウスはその必要性を端的に示す事実として、現状ではロシアは3カ月で、米国を含む北大西洋条約機構(NATO)加盟国全体が1年で生産できる以上の兵器を生産できると指摘する。

欧州再軍備計画は、EU全体で8000億ユーロ(約130兆円)の防衛支出を生む可能性がある。この計画には2つの関連した目的がある。欧州の防衛産業を再編・再活性化しながら、大量の武器・弾薬、大陸防空システム、東部国境の防衛の盾、そして兵站能力や軍事情報衛星を含む「戦略的イネーブラー」の数々を生産していくことである。同じく重要な3つ目の目的はウクライナへの支援だ。ウクライナ向けの武器・弾薬供給を大幅に増やすとともに、ウクライナの防衛産業を強化し、欧州の供給ラインと統合することが目指されている。

気取らず、おじのような雰囲気をたたえたクビリウスは、財源をはじめ、この先に待ち構える課題に臆する色もない。「これがFDRとジャン・モネのメッセージです」とクビリウスは今月、筆者のインタビューで語った。ローズベルトと並んで名前を挙げられたモネは、ローズベルトに勝利計画の立ち上げを働きかけ、のちに欧州統合にも尽力して「EUの父」のひとりに数えられることになるフランスの実業家・政治家だ。メッセージとはこういうものだという。「存亡に関わる脅威に直面したとき、お金は障害にならない。必要なものの資金を手当てする方策は必ず見つかるのです」

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翻訳・編集=江戸伸禎

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