欧州

2025.04.24 09:00

1930年代末に重なる世界、欧州は歴史的な軍備増強を実現できるか

Shutterstock.com

必要なコンセンサス、協力、計画、資金

クビリウスら再軍備計画の実行に関わる当局者にとって、最初の仕事はEU加盟国から完全な承認を得ることだ。欧州の過去の防衛計画では、コンセンサスを得るのは容易でなかった。たとえば、各国による武器・弾薬生産の協力を奨励するために15億ユーロ(約2400億円)の助成金を支出する「欧州防衛産業プログラム(EDIP)」は、1年ほど前に提案されたが、いまだに可決されず停滞している。だがクビリウスは、軍備増強のたたき台にするために作成された一連の報告書など、3年にわたる検討や議論を経て、再軍備計画の実行プロセスは比較的スムーズに進むと見込んでいる。実行のためのメカニズムは早ければ4月中にも動き始めそうだという。

advertisement

第2の課題は、EUの多様な加盟国間で共同計画・生産を促進することである。これは再軍備計画の核心部分と言ってよいだろう。現状では各国が自国の国防費を管理しており、その予算は自国の防衛産業を支えている。また、各国で製造される兵器はNATO規格で「相互運用性」が保証されているはずなのだが、実際には製造国が違うと互換性がないことも少なくない。一例を挙げれば、欧州の3大ランドパワー(陸上戦力強国)であるドイツ、フランス、ポーランドは、それぞれ異なる種類の主力戦車を製造している。最も悪影響が大きいのは、各国が自国にとって必要と考えるものだけを生産していて、域内のほかの国が何を生産しているのか、あるいは欧州全体では何が必要なのかといった点をほとんど顧慮していない点かもしれない。そのため、欧州の軍備を全体として見ると重複や欠落が生じている。

こうしたばらばらな状態に、再軍備計画では共同生産の促進と防衛産業の規制緩和という2つの方策で対処しようとしている。想定される資金のかなりの割合を占める1500億ユーロ(約25兆円)は、少なくとも2カ国が参加する共同プロジェクト向けの融資に充てられる。EU加盟国とウクライナによるプロジェクトも対象になる可能性がある。一方、防衛産業の規制緩和策としては▽建設許可取得プロセスの簡素化▽環境要件の緩和▽国境を越える武器流通に対する付加価値税(VAT)の免除──などが提案されている。

もっとも融資や規制緩和と同じくらい重要になるのは、EUによる計画と調整である。クビリウスはここでもモネに学んでいるといい、彼はそれを「バランスシート」方式と呼んでいる。「複雑に考える必要はありません」とクビリウスは話す。「(欧州防衛のために)何が必要なのかを把握し、いま何を持っているのかを把握する。そして、何がどれくらい足りないのかを導き出し、それを生産していけばよいのです」。この戦略的な計画はすでに進められており、EU加盟国を対象にNATOでの「能力目標」を調査し、クビリウスの言う欧州全体の「総需要」を算出している。

advertisement
次ページ > 最大の課題は財源

翻訳・編集=江戸伸禎

タグ:

連載

Updates:ウクライナ情勢

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事