ロシア・ウクライナ戦争においてロシア軍が戦闘で被っている損害は最近まで、ウクライナ軍の大砲によるものが大半を占めていた。その役割はいまではドローン(無人機)が果たすようになっている。これは、ウクライナ軍が戦闘で榴弾砲をかなりの数失ったことも一因だった。だがウクライナはそれに対処し、国産の2S22ボフダナ自走榴弾砲を大量に配備する能力を高めている。
この進展はボフダナの生産過程の見直しによるものであり、ウクライナはいまや榴弾砲生産をリードする国になっている。大砲とドローン、歩兵を組み合わせた戦術は戦闘において強力な効果を発揮するので、ウクライナ軍にとってこうした兵器の生産能力はきわめて重要なものである。
生産増強の取り組み
ウクライナ国防産業評議会のイーホル・フェディルコ事務局長は3月のインタビューで、ウクライナは現在、ボフダナを月に40両生産する能力があることを示唆した。ボフダナはトラックの車台に射程40km超の155mm砲を搭載した構成になっている。2016年に開発が着手され、2022年から配備され始めた。改良型は自動装填装置が搭載されている。
ウクライナがボフダナの月産数を40両まで増やしたのは、他国の榴弾砲の生産能力と比較するとたいへんな偉業だということがよくわかる。
ドイツのキール世界経済研究所の報告書によれば、防衛産業が確立し、巨額の軍事予算を計上しているロシアも、榴弾砲の月産数は同じく40門程度と推定されている。フランスによるカエサル自走榴弾砲の月産能力は8両、ドイツによるPzH(パンツァーハウビッツェ)2000自走榴弾砲の生産能力は年間でわずか5〜6両にとどまる。BAEシステムズは米軍にM109A7自走榴弾砲を216両納入するのに54カ月かかったので、これは月産4両ということになる。
ウクライナはボフダナの現在の生産能力を実現するために、国内の製造能力を活用して部品生産を合理化した。ネックになったのは車台だった。ボフダナはもともとは、国産のKrAZ-6322六輪駆動トラックの車台を用いていた。生産加速と単一サプライヤーへの依存回避のため、メーカーは別の車台として同じく国産のボフダン-6317六輪駆動トラック(ベラルーシのMAZ-6317のウクライナ版)やチェコ製テトラ815-7八輪駆動トラックを採用した。このほか、牽引式のボフダナも導入した。