3つ目の課題は、歴史的な規模の防衛生産拡大に必要な資金を確保することで、これが最も難しいものだ。EU指導部には計画があるが、期待するほど簡単にはいかないかもしれない。
総額8000億ユーロにのぼる資金のうち、先に触れた1500億ユーロ分については、確保するのは比較的容易だろう。多国間の協力プロジェクトに対するEUの支援付き融資「欧州のための安全保障行動(SAFE)」に充てるこの1500億ユーロを、EUは資本市場から調達することにしている。一方、残りの6500億ユーロ(105兆円)は各加盟国の肩にかかっている。欧州委員会は、EUの厳格な予算編成ルールを緩和して、各加盟国がEUの財政規律に抵触せず軍事調達のための借り入れができるようにすることで、各国の防衛支出積み増しを促したい考えだ。
加盟国は期待に応えられるか
問題は、そしてこれがクビリウスの歴史的な類比が現実とぶつかる点でもあるのだが、EUは米国ではないということだ。EUは連邦国家ではなく、誇り高い独立国家の御しがたい連合体なのが現状であり、結束はもっと緩い。また、EUがその予算を使って兵器の購入や生産に直接乗り出すことはない。いずれもEUの基本条約で原則として禁止されているからだ。EUは、クビリウスの言う「機会の創出」によってのみ目標を達成できる。しかし、各加盟国にはそれぞれ思惑がある。裕福な国もそうでない国も、新たな債務を負うことには、たとえEUのルールで認められても二の足を踏むかもしれない。各国は民主制である以上、指導部は選挙で次々に入れ替わることになるため、予測不可能な部分が常につきまとう。
欧州連合安全保障研究所(EUISS)のアナリスト、ジュゼッペ・スパタフォーラは「EUは各国の役割を代わりに引き受けようというのではなく、あくまで各加盟国の行動を促進しようとしているのです」と解説する。「これはこの計画の美点ですが、リスクでもあります。加盟国側の裁量に任せるところが大きく、各国間で利害が衝突する可能性もあるからです」
クビリウスは、EUのインセンティブは功を奏すると確信している。実際、EUの過去のインセンティブ、たとえば防衛産業の能力拡大のため5億ユーロ(約800億円)を助成した2024年の「弾薬生産支援法(ASAP)」などは、加盟国で活発な取り組みを生み出した実績がある。再軍備計画のVAT免除は武器・弾薬の製造コストを引き下げるだろう。スケールメリットも収益性を高めるはずだ。この計画では、防衛産業への公的支出の急増は民間投資の拡大にもつながると見込んでいる。並行して、欧州の巨大で活用されていない年金基金が兵器生産に投資しやすくなるようにする取り組みも進め、さらに資本を呼び込もうともしている。