政府は3月27日、沖縄・先島諸島から住民や旅行者計12万人を6日間かけ、九州・山口の各県に輸送する計画を発表した。台湾有事を想定したとみられる計画だが、「有事に6日間とは悠長すぎる」「民間の航空機やフェリーなどが協力するのか」「台湾の邦人輸送はどうするのか」という疑問も浮かぶ。ただ、林芳正官房長官は27日の記者会見で「初期的な計画」と語り、今後も検討を加える考えを示した。陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将も「今後の作業が非常に重要になります」と指摘する。
なぜ、政府は一見、穴だらけにも見える避難計画を公表したのか。松村氏は「日本が先島諸島の国民を守ることを真剣に考えている姿が中国にも伝わり、それが抑止力になる効果は大きいと思います」と語る。中国が「日本が国民保護を真剣に考えているなら、防衛計画も十分に練っているはずだ」と考えるからだ。
同時に、先島諸島に住む人々を安心させるという効果もある。一部では、こうした計画が発表されるたびに「戦前の疎開を想起させる」「住民の不安をあおっている」という批判が出る。松村氏は「政府として戦争を目指しているわけではありません。不安定な国際環境のなかで、どんなことが起きても住民を守るという意思の表明なのです」と語る。
そのうえで、松村氏は「防衛にせよ災害対処にせよ、計画がそのまま現実に当てはまるケースはほとんどありません。起きてから、実態に応じてバリエーションを広げて対応します。でも、その場合に基本計画がないと右往左往することになります」と語る。そのための基本計画なのだという。もちろん、輸送力が大きい方が短時間の輸送で済むから、こうした点は今後の課題になる。
また、80年前の沖縄戦では沖縄の人々の島外への疎開が、1944年7月から始まった。だが、米軍による攻撃や家族離散を望まない人々の考えもあり、島外疎開者は当初計画した10万人に及ばない約8万人にとどまった。現代でも、早すぎる避難になれば、日常生活から離れることを嫌がる人も出てくるし、受け入れる自治体の負担も大きくなる。「いつ避難を解除するのか」という問題も出てくる。逆に避難開始のタイミングが遅れれば、民間の航空機やフェリーの使用は難しくなる。そもそも戦闘が行われている海空域の輸送など現実的ではない。政治家が適切な時期に判断を下せるよう、防衛省・自衛隊をはじめ政府各機関は常に情報収集を怠らず、様々なプランを具申できるようにする準備が求められる。