トランプ米大統領が4日、2期目の就任後初めて施政方針演説を行った。トランプ氏は「アメリカン・ドリームはかつてないほど盛り上がっている」と強調。移民対策や世界各国への相互関税導入などの成果をアピールした。「アラスカの天然ガスパイプラインに日本、韓国などが巨額の投資を望んでいる」とも語った。まさに、「米国ファースト主義」全開というべき演説だった。
「米国ファースト」もやや正確ではないかもしれない。トランプ氏は「不法移民の強制送還」を推進。1月27日には米軍再編に関し、DEI(多様性、公平性、包摂性)に関するプログラムの撤廃、トランスジェンダーの兵士の従軍禁止などを含む大統領令に署名した。トランプ氏が考えている「米国」や「米国民」は、従来考えられてきたよりも更に狭義のものなのだろう。
元陸将で現在は認知戦などの研究をしている松村五郎氏はトランプ氏の考え方について「ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩総書記、そして欧州の極右勢力と共通点があります」と指摘する。「それは、すべての人を対等な存在として尊重するのではなく、勝った者が利益を得るのが当然であるという弱肉強食の思想です」という。プーチン、習近平、金正恩の三氏はこの思想に基づいて国内で国民一人一人の権利に基づく民主主義を否定し、独裁体制を敷いてきた。松村氏は「プーチン氏は隣国のウクライナに民主主義が根付き、更にその思想がロシアをも侵食するかもしれないと恐れ、ウクライナ侵攻に踏み切りました」と語る。
欧米では18世紀以降、フランス革命などを経て「人は常に対等な存在である」という前提に立つ人権思想が徐々に時間をかけて社会に定着してきた。その動きが今日の人種差別反対、ジェンダー平等やLGBTQ+などの運動に発展している。米国は従来から、東・西両岸でこうした思想を支持する勢力が主流を占める一方、中西部や南部では、マイノリティーの人権重視は悪平等につながるという不満などを背景に人権擁護運動などに否定的な勢力が多いとされる。松村氏は「常に勝ち負けを重視するトランプ氏には、人間は対等だという考え方は受け入れられないのです」と語る。