防衛研究所の庄司潤一郎研究顧問は、1938年のミュンヘン会談でズデーテン地方割譲を認めたチェンバレン英首相について「結果として戦争への道を誘発した責任は問われるものの、第1次大戦終結から10年あまりしか経っていない時期で、平和を望む気持ちからの合意だった」と語る。
ロシアによるウクライナ侵攻から24日で3年を迎える。戦火が続くなか、「平和を望む気持ち」が高まっていることは間違いない。ただ、トランプ氏の場合、昨年11月の米大統領選前に、自分なら1日で停戦を実現できると強調するなど、政治的な野心が目立つ。ウクライナに対する支援の負担を減らしたいという財政・経済的な思惑もある。トランプ氏は実際、支援と引き換えに、ウクライナの希少金属(レアアース)の獲得に意欲を示している。
そんな動機で停戦やそれに続く和平が実現できるだろうか。すでに、ヘグセス国防長官は12日、ウクライナの領土をクリミア半島が強制併合された2014年以前の状態に戻すことや、北大西洋条約機構(NATO)へのウクライナ加盟を、「現実的ではない」と切って捨てた。ウクライナへの最大支援国とはいえ、交戦国でもない米国がこうした主張をウクライナ抜きですることは、第1次世界大戦後に確立した領土保全と政治的独立の尊重、民族自決主義の原則などから大きく逸脱する行為と言える。そもそも、トランプ政権はすでに、パレスチナ自治区ガザの統治を口にし、民族自決主義を無視する姿勢を示している。