朝鮮中央通信によれば、北朝鮮の金正恩総書記が24日に金日成政治大学、25日に姜健総合軍官学校をそれぞれ視察した。同通信が金日成政治大学を「最高軍事・政治学院」、姜健総合軍官学校を「(北朝鮮で)最初の軍事教育機関であり指揮官養成機関」と呼んだように、両機関は北朝鮮軍の中枢を育てる重要拠点と言える。
金正恩氏は金日成政治大学で「思想のない武装は鉄の塊に過ぎない」と語り、姜健総合軍官学校では「戦争と流血が日常茶飯事となっているこんにちの国際的環境」と指摘したうえで「軍事教育革命の炎を激しく燃え上がらせるところに強軍育成の近道がある」と強調した。ウクライナ政府などが、ロシア南西部クルスク州に派遣された北朝鮮兵約1万2千人のうち、約4千人が死傷したと主張するなか、金正恩氏の演説には、軍の動揺を抑えたい意図が見え隠れする。
自衛隊幹部の一人は「普通、撃破された状態になるほど死傷者が出れば、兵士には動揺が走る」と語る。米ニューヨークタイムズなどによれば、北朝鮮軍部隊は1月半ばにはいったん、前線から姿を消した。ボロボロになった部隊の再編成を急いでいたとみられる。その後、ウクライナメディアのRBCウクライナは2月20日、北朝鮮兵士が再びクルスク州の前線に現れたと報道。同時に、ドローン(無人機)攻撃に対応するため、約50人単位だった編成を10~15人程度の小規模に変えたとするウクライナ軍関係者の証言を伝えた。韓国の情報機関、国家情報院は27日、北朝鮮がクルスク州に兵士を増派したとの見方を示した。
ただ、前述の自衛隊幹部は「兵員輸送装甲車や戦車などの装備品が供給されていないのであれば、被害発生のペースを遅らせるだけにとどまるだろう」と語る。米戦争研究所は1月16日付の報告書で、当時のペースで死傷者が増え続ければ、4月中旬までに全兵士が死傷するという見通しを示した。その後の北朝鮮軍の再編や戦術変更で「4月中旬の全滅」はなくなったが、「戦闘が続けば、いずれは全滅」という可能性は排除できない。