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2025.04.14 12:30

マスクの野望を支える「衛星インターネット」事業の未来が危うい

イーロン・マスクとドナルド・トランプ米大統領(Kayla Bartkowski/Getty Images)

さらに中国は、少なくとも3つの代替となる衛星コンステレーションの開発を進めている。中でも最も進んでいるのが国営企業の「Spacesail(千帆)」で、2030年までに1万5000基の衛星からなるネットワークの構築を目指しており、現在までに90基を打ち上げ済みだ。同社は、国際展開にも積極的で、マスクとスターリンクが政治的トラブルを抱えるブラジル、カザフスタン、マレーシアの3カ国において契約を締結した。

しかし、スターリンクの最大の脅威となり得るのは、アマゾンだ。同社は「Kuiper(カイパー)」と呼ばれる3200基の衛星からなるコンステレーションの構築を計画している。売上高で世界2位の企業であるアマゾンは、このプロジェクトに他に類を見ない資金力を投入できるだけでなく、AWSのデータストレージ事業を地上インフラに活用したり、政府や法人顧客へのクロスセルに利用したりすることも可能だ。

合理性よりも「信仰に近い」投資

一方、スペースXの衛星インターネット事業だけでなく宇宙開発事業全体の運命を左右するのが「スターシップ」と呼ばれる新型ロケットだ。この巨大ロケットは、直近2回の試験打ち上げで飛行中に爆発したが、既存のファルコン9ロケットの約4倍のペイロード(積載能力)を持つ。マスクが主張する大幅な打ち上げコストの削減と高い輸送能力が、このロケットによって実現すれば、宇宙観光や宇宙空間での製造、宇宙ステーションの建設といった「宇宙エコノミー全体の次の爆発的成長」が訪れる可能性が指摘されている。

しかし、ユーロスペースのリオネは、こうした壮大な予測を支える現実的な需要は、「少なくとも短期的にはまだ見当たらない」と指摘する。スターリンクを除けば、通信衛星の打ち上げ需要はほぼ横ばいのままで、地球観測衛星はそれほど多くの数を必要としない。そして宇宙観光に関しては、打ち上げコストが劇的に下がったとしても、生命維持装置などのコストを考慮すると、1人あたりのチケット代は10万ドル(約1430万円)を超える。「そんな金額を払える人がどれほどいるのか?」とリオネは指摘した。

「結局のところマスクの企業に投資することは信仰に近い」と調査会社Quilty Spaceのクィルティは語る。彼は、スペースXの評価額が1000億ドル(約14兆3000億円)を超えた資金調達ラウンドの際に、ある著名な投資家が話したことを思い出すという。その人物は最終的に、「もう評価の正当性をあれこれ考えるのはやめた」と言って投資を決めたのだとクィルティは苦笑しながら振り返った。「伝統的な指標をあてはめても意味がないんだ」と彼は続けた。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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