ユーロスペースのリオネによれば、スターリンクが現在サービスを提供している125の国と地域におけるサービスを購入可能な所得を持つ人々の数は、1500万〜2000万人程度にとどまるという。
スペースXは、インドをはじめとする複数の国でまだサービス開始の承認を得ていない。しかし、リオネによれば、人口が14億人のインドにおいてもスターリンクのチャンスは、人々が考えるほど大きくはない。「年収が3万5000ドル(約500万円)以上の世帯は、インド全体のわずか3%しかない」と彼は指摘した。
「スターリンクの収益の大半は、米国やカナダ、オーストラリアのように高い価格を請求できる国々から生まれている。発展途上国の数千万人から大きな収益を得るような展開はなさそうだ」とファラーも述べている。
しかし、裕福な国々においても、もはや大きな成長の余地はないのかもしれない。
マスクは、これまで一度もスターリンクを世界規模の通信インフラにするとは述べておらず、このサービスが、光ファイバーの敷設が難しい過疎地や人口の少ないエリアにネット接続をもたらす以上の役割を担うとは、一度も主張していない。「スターリンクは、通信会社の大きな脅威になったりしない。それだけは、はっきり明言しておきたい」と彼は2020年のカンファレンスで述べていた。マスクはまた、スターリンク全体の事業機会を「年間最大300億ドル(約4兆2800億円)程度」と見積もっていた。
モルガン・スタンレーは、スターリンクの売上が2030年に480億ドル(約6兆8500億円)に達すると予測している。一方でファラーはより控えめな見方で、200億ドル(約2兆8600億円)が妥当だと考えている。
アマゾンをはじめとした強敵の追い上げ
スペースXはトランプ政権下で新たに数十億ドル規模の連邦契約を獲得する可能性がある。Quilty Spaceの推計によれば、2024年のスターリンクの売上の約4分の1は米国政府によるものだった。
しかし一方で、マスクとトランプとの関係やトランプ政権への反発により、スターリンクは海外で数十億ドル規模のビジネスを失うリスクを抱えている。米国の関税に反発するカナダのオンタリオ州は、過疎地域の家庭や企業を高速インターネットに接続するための6800万ドル(約97億1000万円)のスターリンクの契約をキャンセルした。イタリアも、ウクライナへのスターリンクの接続を断つという脅しに対する反発から、政府の15億ドル(約2140億円)規模の契約の交渉を停止した。
このような動きは、スターリンクの競合企業の追い風となる。台湾や欧州連合(EU)は、マスクや米国に過度に依存しないよう、自前の衛星コンステレーションを構築する動きを促している。スターリンクの競合である衛星ネットワーク「OneWeb」を運営するフランスの衛星通信会社ユーテルサットの株価は今年に入り急騰しているが、この背景には、EUがウクライナでスターリンクの代替として同社に注目していることが挙げられる。また同社は、イタリア政府との契約をスターリンクに代わって獲得する可能性もある。