スペースXは、財務情報を開示していないが、Quilty Spaceの創業者クリス・クィルティは、今年のスターリンクの売上が前年比58%増となる123億ドル(約1兆7600億円)に達すると見込んでいる。また、スペースXのグウィン・ショットウェル社長は昨年末にスターリンクが、黒字転換したと述べていた。
テスラに対して強気派のアダム・ジョナスが主導するモルガン・スタンレーのアナリスト陣は、スターリンクがこれからさらに勢いを増すと見ており、2030年のスペースXの売上が650億ドル(約9兆2900億円)、純利益が160億ドル(約2兆2900億円)に達すると予測している。これらのうち、それぞれ72%と82%をスターリンクが占めると彼らは見積もっている。
だが、こうした強気な見方は、スターリンクが直面する限界を無視したものだ。衛星には人口密集地域で多数のインターネット利用者を同時にカバーする能力がそもそもなく、過疎地域においては高額な料金を支払える人口が限られている。スターリンクはまだアフリカやアジアの多くの国でサービスを開始していないが、これらの地域では既存市場よりも富裕層が少ない。一方、先進国においては、もはや拡大余地があまり残っていない可能性がある。さらに、ジェフ・ベゾス率いるアマゾンなども競合サービスの立ち上げの準備を進めている。
「スペースXの評価は、現在知られている衛星コンステレーションの技術的な現実と釣り合っていない」と欧州の航空・宇宙関連の業界団体ユーロスペースのピエール・リオネは語った。
成長余地は意外に「少ない」
スターリンクの衛星が顧客に送る信号は、懐中電灯の光を例にとって説明すると理解しやすいかもしれない。衛星が地球に近ければ近いほど照射範囲は狭くなるが、特定のエリアに届く光は強力なものになる。だが、現時点のスターリンクの技術は、それほど多くの顧客に対応できない。
通信関連のコンサルタントであるファラーは、スターリンクのウェイティングリストのデータを考慮に入れて、このサービスが対応可能な顧客数が1平方キロメートルあたり1~2人程度にとどまると推定している(ロンドン周辺やシアトル〜ポートランド地域を含む複数の地域では、すでに容量の上限に達している)。
スペースXは、衛星の高度を下げてより広い周波数帯の使用を認めるよう規制当局に申請しているが、これは反対される可能性が高い。同社はまた、現在開発中の超大型ロケット「スターシップ」で打ち上げ予定のV3衛星によって、データ送信能力を既存の第2世代衛星の10倍にしようとしているが仮にそれによって1平方キロあたり10人にサービスを提供できるようになったとしても、都市部で対応できる顧客数は限られる。例えば、人口が800万人強のニューヨーク市で、スターリンクが対応可能なのはせいぜい7000世帯程度だという。