2022年後半時点で、ロシア軍が運用していたBTR-50はほんの数両だった。ロシア軍が少数ながら、老朽化したBTR-50をまだ使っていたこと自体は驚くべきことではない。ロシア軍やその戦い方に関する決定版と呼ぶべき著作『The Russian Way of War(仮訳:ロシアの戦争様式)』で、著者のレスター・グラウとチャールズ・バートルズは「ロシアは旧式車両の在庫を完全に入れ替える必要はないと考えており、近代化を進めていくうえでハイブリッドな方式を採っている」と説明している。
これらのまだ稼働するBTR-50は、敵軍から遠く離れた場所で二次的な支援任務に従事していた。他方、ほかの数千両のBTR-50は野ざらしの保管施設で錆びついていた。2年前なら、これら余剰のBTR-50がウクライナの戦線に投入されることは考えられなかった。これは、ロシア軍がこの戦争で装甲車両をはじめとする重装備を1万5000点以上失う前の話である。
ロシアの産業界による装甲車両の年産数は現在、BMP-3歩兵戦闘車が200両程度、T-90M戦車が90両程度、装輪のBTR-82装甲兵員輸送車などその他が数百両とみられる。したがって、ロシアは戦闘で失った車両の補充の大部分を冷戦時代の古い在庫に頼らざるを得ない。
3年前には、ロシア各地の屋外保管施設に戦車やその他の装甲車両が合計で何万両もあった。だが、これも無尽蔵ではなかった。古い在庫が枯渇し始めると、ロシア軍は全地形対応車やオートバイ、トラック、乗用車、さらには電動スクーターと、民生寄りの車両を使うようになった。
今日、ロシア軍の非装甲の民生車両などが、おそらく内心びくびくしているであろう歩兵を満載してウクライナ軍の陣地側に向けて突進してくるのは、ありふれた光景になっている。それらはたいてい、ウクライナ側によって激しく破壊される結果になる。