南アメリカで出土した化石は、その大昔の霊長類をめぐる信じがたい物語を明かしている。霊長類たちは、植物でできた「天然のいかだ」に必死でしがみつき、不可能に思える航海を生き延びたのだ──1回だけでなく、少なくとも3回も。
「天然のいかだ」で始まった長い航海
およそ3000万~4000万年前の南アメリカは孤立した陸塊で、大海原によってアフリカと隔てられていた。アフリカから南アメリカまでの距離は900~1300マイル(1400~2100km)で、これは海面の変動によって変わった。当時の大西洋は、現在に劣らず手ごわかったが、にもかかわらず、数千万年前のアフリカにいた霊長類は、広大な海を渡り、はるか彼方の南アメリカの岸へとたどりつくことができたと考えられている。
その信じがたい旅は、意図したものではなかったし、自ら望んだものでもなかった。おそらくその霊長類たちは、嵐や洪水などの自然災害によって、倒木や植物でできた大きな浮島と共に押し流されたのだろう。その浮かぶ生態系が、海流と追い風に乗って移動し、数週間、ひょっとしたら数カ月かかったかもしれない航海を経て、霊長類たちを大西洋の向こう側へと運んだのだ。
この霊長類たちを運んだような「天然のいかだ」は、地球上でさまざまな生物種が拡散する上で重要な役割を果たしてきた。こうした偶然できた「船」は、さまざまな植物や残骸をたくさん載せていたが、それと共に、さまざまな動物種もまったく新しい世界へと運んだのだ。
1995年には、カリブ海を襲ったハリケーンにより、大量の植物が海に流れ出て天然のいかだができ、そのいかだがグリーンイグアナを、それまで分布していなかった島々へと送り届けた。