欧州

2024.08.14 09:30

ウクライナの長距離ドローン攻撃数、ロシアを初めて上回る

ドローンによる精密爆撃

ロシアのドローンが何を攻撃目標にしているかについては情報が乏しいが、停電など電力系統に関する問題の報告から、電力インフラに対する攻撃が続いていると推測される。ウクライナは18ギガワットの発電能力を失ったと伝えられ、冬前の再建に向けた緊急プロジェクトが進められている。

ウクライナのドローン攻撃作戦の対象は多岐にわたり、価値の高いさまざまな目標を狙っている。主要な目標のひとつは製油所や石油・ガス貯蔵施設だ。こうした施設に対する攻撃は普通、ソーシャルメディアで劇的な写真や動画が共有されることになるので、確認しやすい。ロシアの石油・ガス業界全体としての損害は評価が難しいが、拡大しているのは確かだ。制裁のため製油所の修復は難しくなっており、ロシアは燃料価格の引き上げや供給制限を余儀なくされるかもしれない。

もうひとつの主要な攻撃目標は航空基地だ。ウクライナの各種ドローンの正確な射程は不明だが、最近はウクライナ側から1800km超離れたロシア北西部ムルマンスク州のオレニャ軍用飛行場も攻撃している。これほど長射程のドローンなら、ロシア国内の相当な数の航空基地が危険にさらされることになる。しかし、こうした攻撃の評価もまた難しい。被害は衛星画像から判断するしかないが、もどかしいほど不鮮明なことも少なくないからだ。ウクライナ当局は、オレニャ軍用飛行場に対する7月27日の攻撃ではTu-22M3爆撃機を、同じころに占領下のウクライナ南部クリミアのサーキ軍用飛行場に対して行った攻撃ではSu-30SM戦闘機を撃破したと主張しているが、いずれも確認はまず不可能だ。

留意しておくべきなのは、これら2つの目標に対しては小さなドローン弾頭で不釣り合いに大きな損害を与えられるという点だ。戦闘機1機が撃破された場合の損害額は、ドローン作戦全体の費用の数倍にのぼる。大きめのドローンは数百kgの弾頭を積み、さらに広範な目標を危険にさらす。

ロシアの変電所は冷却に可燃性の油を使うこともあって、やはりウクライナのドローンの攻撃目標にされている。

オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所の軍事研究担当シニアフェロー、ミック・ライアンはX(旧ツイッター)のスレッドで、ウクライナのドローン作戦の目的のひとつはロシアの軍事計画立案者をジレンマに陥らせることにあると書いている。ロシアは自国領内の航空基地を守るために防空システムを前線から引き揚げれば、前線部隊は空からの攻撃に無防備になる。後方で航空基地の防護を優先すれば、非常に重要なインフラである石油貯蔵施設がますます頻繁に攻撃され、炎上することになる。防空部隊がより素早く射撃できるように規則を変更すれば、ロシア軍のすでにひどい友軍誤射率がさらに高まりかねない。

ライアンは、ウクライナにとって越境攻撃ドローンは、経済的・軍事的ダメージを与えるものだけでなく、政治的な武器にもなっていると指摘している。ガソリン価格の高騰や石油貯蔵タンクの炎上は、ロシア国民にウクライナ侵攻の影響を実感させる。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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