ロシアはウクライナよりもドローンの迎撃がうまくいっていないとみられ、ウクライナはロシアの製油所などの目標により大きな経済的損害を与えているようだ。ウクライナは、長距離ドローンによる攻撃という戦略的な戦いで優位に立ちつつあるのかもしれない。ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は、今後さらに長距離ドローンを増やし、性能も高めていくと約束している。
ロシアのドローン攻勢
ロシアは2022年2月に全面戦争を始めて最初の数カ月で、備蓄していた長距離弾道ミサイルと長距離巡航ミサイルをおおかた使い果たした。ロシアは戦争開始後ミサイル生産を拡大しているものの、ミサイルの発射ペースは生産ペースとおおむね同じの月120発程度とみられる。ミサイルはキーウの小児病院に対する最近の攻撃でもみられたように、破壊力があるためなお重要だが、ロシアの長距離打撃力の大半は現在、ドローンの形をとっている。主要兵器はイランで設計されたシャヘド(ロシア名・ゲラニ2)シリーズの自爆ドローンだ。シャヘドは生産が容易でコストも最低2万ドル(約300万円)と、1発100万ドル(約1億4800万円)以上するミサイルに比べるとかなり安い。ロシア軍が用いるシャヘドは、もともとはイランから輸入されていたが、ライセンス契約のもと、西部のタタールスタン共和国エラブガ(タタール語・アラブガ)にある巨大な新工場での国内生産分が増えている。シャヘドの設計は過去2年で改良されてきたとはいえ、基本はほとんど変わっていない。翼幅約2.5mのプロペラ駆動式ドローンで、時速約180kmで巡航し、45kg超の弾頭を搭載する。低コスト以外でシャヘドの大きな強みは1600km超という射程(航続距離)の長さで、最長で3300kmに達する可能性がある。
ロシア軍は通常、一度に最大30機のシャヘドを発射する。ウクライナ側は、ネットワーク化された何千ものマイクでシャヘド特有の草刈り機のようなエンジン音を聞き分け、探知している。そして、目標に到達するまでの数時間の間に、重機関銃や機関砲を装備した対ドローン機動部隊が配置につく。多くのシャヘドはこうした部隊や地対空ミサイルシステムで迎撃されていて、カスタマイズされた電子戦(EW)システムでコースをそらされたり、墜落させられたりする場合もある。
ロシアの長距離攻撃ドローンはほかにも2〜3種類あるが、現状、ウクライナに飛来しているドローンの大部分はシャヘド型だ。シャヘド型ドローンにはいくつかのタイプがあるものの、現在は一括りに「シャヘド」とカウントされている。
ウクライナは、飛来するシャヘドの90%程度を撃墜していると主張することが多い。ときには撃墜率は100%だったと報告されることもある。しかし、これらの数字を検証するすべはない。シャヘドは、依然としてウクライナに被害をもたらしていることが明らかな半面、その脅威が増しているようにはみえない。エラブガの工場で生産体制が増強されたため、シャヘドの生産数は今年急増すると警戒されてきたが、実際の発射数は比較的安定している。ロシアによるドローン攻撃に関するデータをまとめているアナリスト、Shahed Tracker(@ShahedTracker)によると、シャヘド型ドローンのウクライナ飛来数は今年1月と2月は各およそ380機で、3月に601機と急増したものの、4月は290機に減り、以後5月は314機、6月は336機、7月は426機と推移している。