「周期」を生き抜く知恵と豊田章一郎の「ものすごい一言」 

超老舗ファミリー企業の「時間軸」

藤吉:さっきのフォードの工場における豊田喜一郎さんと、EVに対する豊田章男さんのスタンスって共通するものがありますよね。それは何なのかな、と考えると、時代のトレンドとかムードに流されずに判断できる「経営力」じゃないか。この感覚というのは、製造業のファミリー企業だからこそ継承されているように思えるんです。
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阿部:それはあるでしょうね。やっぱりトレンドに対する感覚が一般の人たちとは違うんじゃないかな。時間軸のとり方が長いから、目先の現象に惑わされない。

藤吉:フランスのパリにエノキアン協会という創業200年以上のファミリー企業だけで構成された国際組織があるんです。日本だと「とらや」さんなんかも加入しているんですが、この協会の東京大会を取材したことがあるんです。そこで会員同士で「リーマンショック、大変でしたよね」という話をしていたら、別の会員が「いやいや、ナポレオンが攻めてきたときに比べたら、全然大したことない。あのときは本当に大変だった」って言うんですよね(笑)。冗談みたいな面白さだな、と思いました。

阿部:その話で僕も思い出したことがあります。というのはプラザ合意(1985年)のとき、僕は米国野村証券の新米アナリストで、実は豊田章一郎さんとお話しする機会があったんですよ。
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藤吉:えーっ、そうだったんですか!?

阿部:背景を少し説明すると、当時、アメリカは財政赤字と貿易赤字という「双子の赤字」で苦しんでいました。一方で日本は高度経済成長を経てGDPが拡大し、加えて為替は1ドル=240円前後でしたから、トヨタをはじめ日本企業の輸出は絶好調でした。

そこでアメリカ主導で為替介入して、円高ドル安へ誘導して、アメリカの輸出競争力を高めようというのが「プラザ合意」の狙いでした。実際、その後1年ぐらいで1ドル=150円ぐらいまで円高が進んでいった。普通に考えると、輸出業者は生き残れないくらいのインパクトですよ。同じ量を売っても、儲けが半分くらいになるわけだから。
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text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

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