これらは、日本経済が「失われた30年」と言われ停滞している時代でも、時価総額を確実に上昇させ成長を続けている企業であり、その社長の在任期間である。
日本企業ではトップが10年以上在任するのは、よくある話ではない。なぜなら、4年未満で年功序列に従って交代するケースが多いからである。ニッセイ基礎研究所のレポートによると、日本の大企業の内部昇進CEOの平均在任期間は5年程度、アメリカのCEOの平均在任期間13年超の半分にも満たない。
課題を乗り越えるのに時間は必要か?
冒頭に挙げた企業は、日本経済の不振にもかかわらず大きく成長を遂げた企業だが、すべての会社がオーナー企業であり、トヨタ自動車を除くとすべて創業者である。その在任期間は先述したように、とても長い。これは偶然だろうか。
例えばトヨタの豊田章男社長は、私たちForbes JAPANと阿部修平率いる投資運用会社スパークスの調査取材に対して、在任期間についてこう明かしている。「私自身、長期政権なんて考えたこともなく、気がついたらこんなに長くやっている」。社長就任以来の危機を必死に乗り越えているうちに年月が経ったということだ。
トヨタは2008年のリーマンショックを受けた巨額営業赤字、アメリカでの大規模リコールやアメリカ下院での公聴会、東日本大震災など危機をくぐり抜けてきた。そうした危機の連続の中で「毎日、生き抜くのに必死なだけで、一つずつ問題をクリアにしているだけ」という日々だった。その結果、豊田の在任期間は今年で14年を迎えることになった。
次世代を育てるのに時間が要る理由は?
言えることは、会社創業時の信念やミッションを次の世代に継承させるのには、時間がかかるということだ。
6月15日に開催されたトヨタ自動車の定時株主総会で、後継者について株主から質問された豊田は次のように答えた。「哲学、生産方式といったトヨタの思想と技、所作を身に付けた人」が条件だ。阿部の分析をまとめた『トヨタ「家元組織」革命』の中でも、豊田は「いつか家元を譲る時がくる。家元がトヨタのアイデンティティであり、それは思想と技と所作を習得し、自ら体現する人にやってほしいと思っている。創業家である必要はない」と話している。
しかし、この「思想、技、所作」というものは放っておいて次の世代が自然に身につけられるものではない。「思想、技、所作」が継承されていないために、創業者から経営トップの委譲が進まないケースが多いのではなかろうか。冒頭に挙げた企業では、後継者を一度決定しても創業者が再び返り咲くケースばかりだ。