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2022.06.24 08:00

トヨタ、ソフトバンク、日本電産、ユニクロ 「最高の経営者」の後継者が決まらない本当の理由


例えば、日本電産。2021年6月に創業者の永守重信から関潤にCEOが引き継がれたが、2022年の4月、一年も経たないうちに永守会長が再び経営トップに復帰した。6月17日の記者会見で永守は、関が「逃げない限りはCEOの後継者として育つ」とする一方で、再びCEOを継承させる時期について「あと3年くらいかかる。日本電産の経営手法やスピード、コストに対する感性を身に付けるのにはそれくらいかかるだろう」と4月の記者会見で話している。

さらに、少し前の話になるがファーストリテイリングでは2002年に創業者の柳井正社長は、現ロッテホールディングス社長の玉塚元一にCEOを委譲した。しかし、3年後の2005年に玉塚と入れ替わる形で柳井はCEOに再登板している。

ソフトバンクも2016年、孫が後継者と公言していたにもかかわらず、当時副社長のニケシュ・アローラの退任を6月の総会直前に発表した。同時に孫は自らがCEOを続投すると発表した。

トヨタの「思想、技、所作」とは?


では、豊田が次期社長の条件として挙げた、「思想、技、所作」とは何を指すのか。

そもそも豊田の曽祖父の佐吉が自動織機を発明したきっかけは、夜なべして働く母親に楽をさせるために作った織機であり、その後も工場の従業員の労働負担を軽くするための発明をした。その根底にあった思想は、創意工夫をして産業を興して国に貢献するという二宮尊徳の利他の精神につながる。明治の開国の時代に佐吉や多くの経済人に影響を与えた「報徳仕法」の考えだ。そして佐吉の息子の喜一郎は、トヨタ自動車を創業する際に佐吉の遺訓を「豊田綱領」にまとめた。

「報徳仕法」や「豊田綱領」がトヨタの「思想」なら、トヨタの「技」は「トヨタ生産方式(TPS−Toyota Production System)」だ。創意工夫をすることでムダを徹底的になくすことをめざし、その工程で品質も向上させるというトヨタの最大の強みでもある。

その「技」を支えるのが、トヨタの「所作」であり、これはムダをなくす「カイゼン」活動や、必ず現場を見て解決することを旨とする「現地現物」という考え方を指す。

トヨタは創業期から、思想、技、所作はそれぞれ存在したが、バラバラに捉えられていた。例えば、技であるTPSは工場内のものと考えられていたが、営業部時代の豊田章男が、クルマを「鮮度」という言葉で語り、客に届けるのも「ジャスト・イン・タイム」をもちこむなどトヨタ生産方式を工場の外に拡張していった。

また、「思想」が忘れられていた時代もあったが、再び浸透させて、技や所作は「誰かを楽にする」という思想があるからこそ効力を発揮し、それが自らの仕事を向上させることを教えた。つまり、思想、技、所作というそれぞれの「点」を初めて一体化させたのである。

その結果、2022年3月期の連結決算で過去最高利益を更新し、日本企業として最大の営業利益を計上した。それが、豊田が株主総会で後継者の条件として「思想、技、所作」を身につけていることを挙げた理由といえるだろう。

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文=中田浩子 編集=松浦朋希

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