経済

2024.06.30 09:15

「周期」を生き抜く知恵と豊田章一郎の「ものすごい一言」 スパークス代表 阿部修平×Forbes JAPAN編集長 藤吉雅春

これからのトレンドは「多品種少量生産」

藤吉:もうひとつ、その次なるイノベーションが日本発だとしたら、どういうものになるのかという視点も面白いと思うんです。

僕は前回、阿部さんに会ってから、いろんな経営者に「日本の製造業ってどうなんですかね」という話をぶつけてきたんです。そうしたら、大手家電メーカーで社長を務めた経験のある人がこんなことを言ってたんです。

「マーケティングの視点で考えると、これからの消費者は細かくカスタマイズされたモノを求めるので『多品種少量生産』が世界的なトレンドになると思います。ただ世界中を探しても、多品種少量生産に対応できる生産工程を維持している国は、日本だけだと思う。それを可能ならしめているのは、日本の高品質な産業用ロボットです。今後、ここにChatGPTのようなAIを組み合わせていくと、さらに可能性が広がっていくんじゃないか」。

これは前回の阿部さんの視点と重なる話だな、と思ったんです。

阿部:僕もそう思います。実は産業用ロボットというのが、まさに今、ウチで一番リサーチしている領域なんです。

藤吉:そうなんですか。

阿部:この間、ウチの会社でIJTTという、いすゞ自動車のエンジンパーツを作っている会社を買収したんですが、ここは産業用ロボットのアームなんかも手掛けています。

ロボットのアームが人間の腕と同じように動くためには、非常に精巧な小さな部品がたくさん必要になるんですが、IJTTはその部品を作るための鋳造鍛造の技術を持っている。この技術を持っている会社って世界中探しても、ほぼ日本にしかないんです。

いわば自動車のサプライチェーンの中のひとつの〝鎖〟にすぎない会社が、世界的にみてもハイレベルで稀少な技術を持っているのは日本の強みだと思います。

藤吉:その鋳造鍛造の技術というのは、かつてはアメリカなんかにもあったんですか。

阿部:もちろんアメリカにしてもイギリスにしても、そういう職人はいたはずです。けれど効率性とコストを追求する過程で、そういう領域の技術はどんどん切り捨てられていったんです。つまり安い労働力の国へ外注するようになった。
次ページ > 豊田喜一郎がフォードで見たもの

text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

ForbesBrandVoice

人気記事