「周期」を生き抜く知恵と豊田章一郎の「ものすごい一言」 

豊田喜一郎がフォードで見たもの

阿部:豊田喜一郎(トヨタ自動車の創業者)さんが父の佐吉さんに言われて、アメリカにフォードの工場を視察に行ったときの話がありますよね。喜一郎さんは、流れ作業に従事する工員の一人ひとりの間に在庫の山があるのを見て、T型フォードという単一商品だけをひたすら大量生産するやり方は、日本には合わないと悟るわけです。

なぜなら日本には単一商品だけで成り立つアメリカのように大きな市場はないし、そのための生産ラインを作る財力も当時のトヨタにはなかったから。そこで、いろんな形の車を同じラインの中で作る、つまり多品種少量で、総量として大量生産というトヨタの〝お家芸〟が生まれてきたんです。

藤吉:ということは、IJTTのような自動車サプライチェーンの一つひとつが今も高い技術力を維持している〝原点〟は、トヨタにあるとも言えますね。

阿部:そうなんです。ただそのトヨタでも、将来的に一番問題となってくるのは人出不足なんです。5年後、10年後には明らかに今の工場をサポートしている人数が足りなくなる。

藤吉:少子高齢化で労働人口が減っていくということですよね。

阿部:そう。恐らくトヨタはその不足分を埋めるための生産性の向上策を見つけると思うし、その〝切り札〟が産業用ロボットなんじゃないか、と僕は思っています。

藤吉:今後、日本に限らずG20の国はみんな、労働者が減って、消費者である高齢者層が増えていくわけですよね。世界的なトレンドとして、作る人は減って、買う人が増える。そのギャップをどうやって埋めるかは世界的な課題でもありますよね。

阿部:だから僕は「ものづくり」日本が復活する、と言ってるんです。高級、高品質、高付加価値でリライアブルな「道具(デバイス)」を作る技術と基盤が残っているから。

電気自動車はイノベーションをもたらすのか?

阿部:改めて今の日本の市場を見ると、化石燃料を使う内燃機関と関わりのある企業の価値が極端に安いんです。そのひとつの例がIJTTでした。

なぜ内燃機関に関する株価が安いかというと、これは脱炭素とかEV(電気自動車)推進の流れがあるからですよね。内燃機関は時代遅れだ、というイメージをつけられちゃったからなんだけど、本当にそうなのか。

まず世界中の車がすべてEVに切り替わるのに、どう考えても30年はかかる。その30年間をどうやって凌ぐのかという問題がまずある。それから世界的に見ると、開発途上国を中心に電気のないところで暮らしている人が約10億人います。そういう人たちは現状EVのバッテリーの電気を賄う術がない。

そもそも電気だって無限に湧いてくるわけではありません。東南アジアやインドなんかは、発電はほとんどが化石燃料ベースで行っているのが実情です。日本でさえ5割以上を火力発電で賄っている。だからEVを動かすためにさらに大量に発電しようとなったら、今よりもっとCO2が増える。

藤吉:結果的にEV社会を目指せば、脱炭素どころか逆にCO2の排出量は増えてしまうんですね。

阿部:一方で内燃機関に対する期待は過剰に萎んでしまっていますが、トヨタ自動車の豊田章男会長は「内燃機関はなくならない」とEV時代が始まった当初から言ってますね。実際にトヨタが手掛けるハイブリッド車は、内燃機関とバッテリーを組み合わせています。

もちろん今後、内燃機関は総量としては減っていくかもしれないけど、なくなることはないだろう。けれど内燃機関に関連した会社の株価の方は無くなることを前提にしたレベルに低迷している――これが僕らの見立てです。

さらに内燃機関関連のサプライチェーンで生きている技術というのは、いろんな分野で応用が可能です。そういう技術を持っている企業にとっては、自動車のサプライチェーンを担う役割に過度に依存した状況から抜け出して、自ら成長できる領域を切り開いていけるチャンスでもあるわけです。IJTTはその一例ですね。
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text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

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