〈トヨタ、最高益。円安も追い風ー〉。5月11日、トヨタ自動車の決算説明会を受けて、メディアは一斉にそう報じた。営業利益2.9兆円。2022年3月期連結決算で計上したこの数字はトヨタの最高益であるだけでなく、日本企業としても過去最高益となる。しかし、その要因を「円安」にだけ求めてしまうと、ことの本質を見誤る。決算説明会で財務担当の副社長、近健太はこう付け加えている。
「13年をかけて体質改善を大きく進めてきました」
13年。これは豊田章男が男が社長に就任した2009年からの年月を指す。体質改善といっても、トヨタ単体の従業員数は7万人、連結だと36万人という大所帯を、どうやって体質改善できたというのか。
しかも、08年に起きたリーマンショック直前より販売台数は70万台近く減少している。販売台数は減っているのに、利益は過去最高ー。
私たちの関心はまさにここだ。モノが売れない時代に成長を続ける「体質」とは何か。日本の大企業の世界でのプレゼンスは下がり続けている。日本の製造業をはじめとする大企業は、耳にタコができるほど「環境の激変に対応できていない」と言われ続けている。実はトヨタとて、それは同じだ。
「資本の論理に飲み込まれて、結果的に自社が築いたビジネスモデルを見失い、誤った経営に突き進んでいた時期がある」と見抜いたのが、投資顧問会社スパークス・グループの社長、阿部修平だ。私たちForbes JAPANは、阿部を中心としたスパークスのアナリストチームと共同研究を開始。豊田章男社長に2年近く密着取材と分析を行い、近健太がいう「体質改善」の内幕を見たのである。
販売減でも増益のワケ
図は、2016年にカンパニー制へ移行してからの6年間の収益構造の変化で、なかでも業績に影響を与える要素を並べたものだ。注目すべきは、連結販売台数が約45万台低下し、為替も8円の円高、ダメ押しの世界的な資材価格の高騰にもかかわらず、長年推し進めてきた収益改善だけで2.1兆円超のプラス分がそれらを吸収していることだ。(上・下図は22年3月期トヨタ決算発表資料を基に作成)
損益分岐台数の推移
2008年のリーマンショックによって初の赤字に転落した直後、豊田章男は社長に就任。以降、13年かけて収益構造の変化に尽力してきた。その成果は左図の「損益分岐台数の低下」に象徴される。リーマンショック時を100としたとき、22年には60%台までに効率化が進んでいる。それ以前は販売台数が増加すると、本来は損益分岐台数が下がるが、拡大に伴うコストがかさみ、利益率が低下した。
「ための経営」と3つの歴史
トヨタ経営の研究で阿部が見出したキーワードに「ための経営」がある。「ため」とは武道で相手が動くまで我慢して動かない「ためる」だ。なぜ、「ため」が重要なのか。社長の豊田が愛知県内にある施設で私たちに見せてくれたものがある。トヨタの歴代の自動車をミニカーにして年代ごとに壁に並べたものだ。
このとき豊田はこう言った。「トヨタは式年遷宮をやってきたんですよ」。式年遷宮とはご存知の通り、伊勢神宮の神々が20年に一度、新社殿に「遷る」ものだ。神様に動いてもらうには、内宮と外宮を新調しなければならない。これが時代を越えた職人たちの技術継承となる。