「周期」を生き抜く知恵と豊田章一郎の「ものすごい一言」 

「バブル」は日本人の投資マインドを変えたか?

藤吉:日本の投資家の場合、やっぱりバブルを経験しているかどうかで、だいぶ投資マインドが変わってくるんじゃないですか。
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阿部:日本人はバブルが崩壊するまで、銀行が潰れるなんて考えたこともなかったんですよね。けれどバブルを経て、不滅神話のあった銀行といえど、経済的合理性からは逃れられないことを学んだ、ともいえます。

藤吉:阿部さんご自身はバブルをどう見ていたんですか。

阿部:僕は1980年代にアメリカで金融教育を受けたので、「マーケット至上主義者」だったんです。だから、アダム・スミスの言う通り、市場には「見えざる神の手」があって、それが市場を支配していると習った。
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ところがバブル崩壊直前の1989年に日本に戻ってきて投資の仕事を始めてみると、どうも日本の市場には「見えざる手」とは別に、マーケットを支配する上位の〝意思〟が存在することに気付いたんです。それは何かといえば、当時の大蔵省であり、株の持ち合いという仕組みで実質的に企業を支配していた銀行です。

藤吉:結局、銀行の「不滅神話」というのは、土地の値段は上がり続けるという「土地神話」とセットになっていたんですよね。けれど土地の値段がずっと上がることは冷静に考えればありえないわけで……。

阿部:それこそ「周期」ですよね。だからリンチはバブル時代の日本の株価を見ていつも「これは高すぎる」と言っていました。だって日本の地価がピークの時は、皇居の土地の値段が、カリフォルニア全土の土地の値段と一緒だと言われてたくらいですから。

異常な状況が普通になっていたんですね。そういうときは、必ずどこかで「新しい異常」が起きている。結局バブルが弾けて、潰れないと思った銀行が潰れたからみんな驚いたし、銀行は銀行でこれで完全に委縮してしまいましたよね。

次は「日本復活」のフェーズへ

藤吉:そこから日本は「失われた30年」へと突入していきます。ただこれも「周期」説に立って考えると、日本だけがずっと沈みっぱなしということもないはずです。実際にこの「失われた30年」を経て、次は日本が製造業を中心として復活するフェーズに入るのでは、というのが前回の阿部さんのお話の骨子でした。

阿部:ちょっと調子に乗りすぎたかもしれません(笑)。

藤吉:いやいや(笑)。なぜ日本の製造業が復活するのかという背景については、前回の対談をご覧いただくとして、その次の段階の話として、人類の次なるイノベーションは何かという話があります。阿部さんは〝ポスト・スマホ〟級のイノベーションをもたらすような新たな「道具(デバイス)」が日本の製造業から生まれるのではないか、と。

阿部:僕は強くそう思ってますね。

藤吉:もちろん現時点で未来に起きるイノベーションがどんなものかを正確に予測することはできませんが、「周期」説に従えば、過去にヒントがあるかもしれませんよね。

阿部:それはすごく重要な視点だと思います。人間の本性って変わらないですからね。ソクラテスの時代から、嫁姑問題というのはあったわけで(笑)。

そういう目で改めて人類の歴史にイノベーションをもたらした発明を見ていくと、テレビやラジオ、あるいはインターネットやスマホにしても、すべて人間のコミュニケーションに関わる道具ですよね。もっといえば、文字の発明もそうです。人類史というのは、コミュニケーションの媒体を通じて形成されてきたという見方もできます。

藤吉:次なるイノベーションもまた、コミュニケーションというキーワードで考えられるのかもしれませんね。 
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text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

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