欧州

2024.06.03 09:00

ウクライナ軍、HIMARSでロシア領内を攻撃 北東部攻勢の封じ込め狙う

2017年6月、ラトビア・アダジで行われた北大西洋条約機構(NATO)の演習で射撃を行う高機動ロケット砲システム(HIMARS)(fotorobs / Shutterstock.com)

ロシアがウクライナに対する戦争を拡大してから2年あまりの間、ジョー・バイデン米政権はウクライナ軍に「レッドライン」を引いてきた。

米国はウクライナに空中投下の滑空爆弾、ハープーン巡航ミサイル、高機動ロケット砲システム(HIMARS)向けのM30/31ロケット弾、ATACMS弾道ミサイルといった精密弾薬を供与する。

ウクライナ軍はそれをウクライナ領内にあるロシア軍の目標に対する攻撃に使用できる。だがロシア領内の目標に使用すれば、米国は今後の軍事支援を控えることもあり得る──。米国の支援にはこうした条件がつけられていた。

しかし、ロシアとの国境からわずか40kmほどのウクライナ北東部ハルキウ市に対する最近の攻撃を受けて、バイデンは考えを変えた。人口140万人のハルキウでは、ロシア軍による1カ月にわたる無差別攻撃で数万人の市民が避難を強いられ、数十人が死亡している。5月25日には市内のホームセンターが爆撃され、子ども2人を含む18人が犠牲になった。

バイデン政権は5月末、レッドラインを一部消した

ウクライナ軍は5月31日の夜にさっそく、ウクライナとの国境から30kmあまりのロシア南部ベルゴロド市に向けてHIMARSの装輪車両の発射機からロケット弾を発射した。

射程が92kmあり、22kgの弾頭を搭載する300kgのロケット弾は数十発撃ち込まれたのかもれない。ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領はこれに先だち、バイデンの決断は「ロシアのテロと戦争拡大の企てからウクライナとウクライナ人をよりよく守れるようにする歓迎すべき一歩」だと述べ、謝意を表している。

ロシアメディアは、人口38万人あまりのベルゴロドにウクライナのロケット弾が猛スピードで飛んでくるなか、現地で空襲サイレンや地対空ミサイルシステムの轟音が鳴り響く様子を捉えている。国営のタス通信はロシア国防省の報告として、ロケット弾14発などを撃墜したとしている。ロケット弾の残骸とみられるものの画像も出回っている。

この攻撃がどれくらいの損害を与えたのか、さらに言えば軍事目標にどのような損害を与えたのかは現時点で不明だ。

一方、ウクライナ側の狙いは明らかだ。ベルゴロドとその周辺地域はロシア軍の北部方面部隊の作戦拠点になっている。この部隊は5月10日以来、ウクライナ側の国境近くの村や町を攻撃しており、ウクライナ軍の防御線を突破してハルキウに進軍することをめざしている可能性もある。

ロシア軍部隊は3週間にわたる激しい戦闘で多大な損害を出しながら、ウクライナの国境沿いの村を次々に占領し、小規模な都市ボウチャンシクを瓦礫だらけの戦場に変えた。ウクライナ側はただちに第36独立海兵旅団、第71独立猟兵旅団、精鋭の第82独立空中強襲旅団などを増援に送り、ロシア側の進撃を食い止めた。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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