映画

2024.03.11 13:15

是枝監督が本音で語る 「映画とビジネス」の意外な接点とは?

「愛」というワードだけで訳されたくない、日本的ニュアンスの伝え方

谷本:これは、私の稚拙な感想になって申し訳ないのですけど。自身の出産を機に、虐待ニュースが他人事でなく、一切見られなくなってしまいました。心が苦しくなって何とかしなきゃ、と心がざわついて。そんな時、監督の作品を観て物凄く安心できたんです。『誰も知らない』でいえば、あのような状況の中で、子どもたちは子どもたちなりに、自分たちで自分たちだけの守られたユートピアを作っていたのではないかという視点を持てたんです。

それからは虐待ニュースに対して、もう少し冷静に向き合えるように変わりました。そういったメッセージを、是枝監督は日本のみならず、世界にも発信されているのではないかなって思っております。一方的な感想ですが、そのようなメッセージを送ってくださり、本当にありがとうございます(笑)。

そこで質問がございまして。日本ならではの「侘び寂び」ではないですが、機微といったニュアンス的なものが、どのくらい世界に伝わっているのか?について伺いたいです。

私の外国人の友人の何人かが、「村上春樹さんの作品が大好き! 是枝監督の作品が大好き!」って言います。でも、いつも思ってしまうのは「ちょっと待って。あなたは、『僕』と『俺』と『私』のその差が分かる? このニュアンスがわからずして、村上さんや是枝監督の作品を100%理解できていないのでは」と。



是枝:映像を読み解くリテラシーが、日本以上に高い国は沢山あります。だから、行間のセリフにならない部分の感情や省略したエッセンスをすくい取って、読み取ってくれる観客は必ずいますので、そこの部分を信頼して映画を作っています。

ただ、例えば言語の問題。僕は自分のセリフが英語の字幕とかフランス語の字幕になっても厳密には分からない。でも、日本語でセリフを書く時には日本語ってすごくいい加減な言語なので、現在形と過去形は混ざりますし、日常会話で喋ってると主語を省いた方が会話としてはリアルだったり。でも、フランス語は、主語がない文章はないし、現在形と過去形は混ざらない。そこを全部明確にしないといけなくなっちゃうんですよね。その辺りが難しいところではあります。

谷本:映画を観る上でリテラシーが高い国ってどのあたりですか?

是枝:やはりフランスでしょうか。教育の問題もあると思います。例えば、僕らの世代って、小学校の視聴覚の授業って、NHKの番組1時間観て終わり。ところが、フランスでは、公立高校で選択科目としての映画があるんですよね。授業では、観るべき映画が100本用意されている。そんな教育をしているから、観客側が育ち、作り手も育つし、いい循環が生まれるわけです。映画を生んだのはフランスだっていう自負があるから、そこはちゃんと取り組んでるんですよ。



谷本:それでは、今の日本について伺わせて下さい。成熟した資本主義の国として、私達は、NEXTを目指さなくちゃいけない。つまり、文化リテラシーを上げる国家になるべきだと、ずっと言われているのですが。映画の役割については、どんなところから手をつけていったらいいでしょうか?

是枝:僕にとって、大きなテーマ過ぎて何から話したらいいかなぁ(笑)。映画というのは文化的な側面もあるけれど、ビジネスの側面もあって、そこが僕は面白いと思ってます。基本は、儲けなくちゃいけないんですよ。ここにお越しの経営者の方々もそうですよね。映画監督は、芸術的に優れた作品を作りつつ、お金を稼がないと次へつながらないのが現実。今問題なのはそこに共助の仕組みも統括された公助の仕組みも無いことなんです。

国の映画の支援も管轄が、文化は文科省文化庁、経済は経産省、労働環境は厚生労働省。本来であればこれらの複数の省を横断して、映画業界を下支えして欲しいと願っています。
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文=中村麻美

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