なぜ、ベイビー・ブローカーは韓国で不人気だったのか

「疑似家族」もの2作品、韓国でどう受け止められたか(Photo by Lionel Hahn/Getty Images)(Stockadaily / Shutterstock.com)

今年6月、日韓で公開された是枝裕和監督の新作「ベイビー・ブローカー」。国際映画祭で賞も獲得したが、韓国での評価はいま一つパッとしなかった。

公開時期が、大ヒットした「トップガン マーヴェリック」と重なった不運もあった。9月のソウルで会った知人たちに、片端から「なぜ、ベイビー・ブローカーが韓国人に受けないのか」と聞いてみた。知人たちの説明は様々で、「これが正解」と簡単には決めつけられないが、日韓の間に存在する「微妙な違い」を知る機会にもなった。

「ベイビー・ブローカー」(韓国作品名:ブローカー)は、「赤ちゃんポスト」に預けられた赤ん坊を巡り、ソン・ガンホが演じるベイビー・ブローカーの男や、イ・ジウンが演じる赤ん坊の母親らが織りなすストーリーだ。ソン・ガンホは第75回カンヌ国際映画祭男優賞を受賞した。

知人夫婦は7月、ソウル市内の映画館で「ベイビー・ブローカー」を鑑賞した。前の列には、韓国人アジュンマ(おばさん)が3人並んで座っていた。アジュンマの1人が映画の途中、小声で言い放った。「チョンマル チェミオンネー(本当に、つまらないわね)」。別のアジュンマは、この声にうなづきながら、こう返した。「チンチャ、チルハダー(ほんとに退屈だわ)」

韓国新聞社に勤める40代の男性は「その気持ちは、自分にもよくわかる」と話す。この男性は学生時代、日本で暮らしたため、日韓両方の情緒がよくわかる。

知人は「ベイビー・ブローカーのテーマは、疑似家族でしょう。韓国で疑似家族なんてありえないですから、感情移入できないんですよ」と語る。別の自営業者の50代男性も「韓国は近代化を短期間で達成したから、昔良き時代の面影が残っているんですよ。家庭崩壊がないわけではありませんが、家族の紐帯は日本よりも強いと思います」と言う。

また、韓国では宗教の力が強い。アジアではフィリピンと並ぶ「キリスト教大国」だ。カトリックとプロテスタントを会わせた信者数は2千万人を超えるという指摘もある。仏教信者も1千万人以上いると言われ、この3大宗教だけで人口の過半数を占める。家族が崩壊しても、宗教で心の平安を得られるため、疑似家族を頼るということにならないという考え方だ。

こうした理由により、韓国では「ベイビー・ブローカー」や「万引き家族」で描かれたような「疑似家族」がウケないのだという。
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文=牧野愛博

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