是枝:僕自身、テレビ出身者という事実がコンプレックスだったけど、今は開き直りました(笑)。映画祭に行っても、スポットライトを浴びる監督として、純粋にお祭りを楽しめなくて。テレビディレクター的視点で「映画祭っていうのは、どういう人材が集まって、どこでお金が動くんだろう?」と、頭を巡らしているんですよ。
10年後の未来への課題は、後継者育成
谷本:では、現在、監督はどういう目線で映画と向き合っていらっしゃいますか?是枝:作りたいものは、両手に余るぐらいあるもんですから、死ぬまでずっと映画を作り続けると思います。今、映画そのものが大きく揺らいでいますが。逆に言うとチャンスではあるんですよ。
例えば、僕がデビューした頃。フィルムで撮ったもの以外は映画とは言わなかったです。今はもうほとんどの人はデジタルです。デジタルになった段階で、恐らく何かが失われてしまった。自宅に居ながら、クオリティの高い画像で見られる時代にわざわざ2000円払って劇場に行くモチベーションを作るのは、難しい。だからこそ、劇場体験が何かという事を、改めて見つめ直す必要があると思うんです。
谷本:今後10年を見据えての構想をお話いただけますか?
是枝:僕も経営者。なので、次の作り手をどう育てていくかを、真剣に考える時期が来ました。会社組織にして、まだ10年ですが、次世代の監督達を輩出して、映画でメシが食えるやつを育てていく事が、この先10年の僕の課題です。
谷本:今、映画監督になりたい世代って、どんな思考を持って目指しているのでしょうか?
是枝:僕もそうですけれども、映画を専門に学んでいなくても映画監督になっているのが日本です。最近の若い世代は、映像系の大学で基礎知識を学んで、監督になっている方が増えてきました。一方、フランスだと、映画監督は、エリート中のエリート。国立の映画大学に通って、その中でも監督コースに入れるのは、スーパーエリートなんです。
でも、日本の場合、職人気質の中で「現場で学べ」というスタイルが、いまだに継承されている。そもそも映画を作る行為自体が合理的ではないので、そのやり方もなるほど!と思いますが(笑)。