映画

2024.03.11 13:15

是枝監督が本音で語る 「映画とビジネス」の意外な接点とは?

フランスは芸術、韓国は投資、日本は趣味

谷本:具体的には、国によって取り組み方が異なりますか?

是枝:はい。フランスが素晴らしいのは、戦後、テレビが台頭してきた時に「映画業界自体がピンチ! このままだとテレビに飲まれるぞ」と察知して、すぐ手を打った。テレビの売り上げの一部を映画活動資金にまわせという法律を作っちゃったんですね。さらに、劇場収入の11%を川下から川上に環流させるシステムも作った。その結果、フランスは、映画の多様性を守る仕組みを確立した。韓国は、フランスをモデルにしています。

谷本:例えば、映画もそうですし、映画監督という職業。力があるけれども、資金が追いつかない問題って、世の中には沢山ある気がします。資金循環を良くしていくには、お金を持ってる方が文化リテラシーを上げるサポートをして、映画監督を育てるメセナ活動が必要かもしれませんね。そのあたりを監督は、どのように考えていらっしゃいますか?

是枝:本当にそう思います。成熟したパトロン文化が育つといいなと願っています。

日本の映画の作り方というのは、制作委員会方式といいまして、映画業界には外からは大金が入ってこない仕組みです。例えば、多くの映画は映画配給会社と出版社と放送局が寄り合い所帯で制作しますが、最近だと木下工務店という映画好きの社長さんがいらっしゃるので別業種のお金が入ってくるんですが例外中の例外。基本は業界内が寄せ集まり、リスクを減らしながら小さな商売をしているんです。現場で働いている制作スタッフに、利潤が出ても還元されにくいシステムです。

一方の韓国。映画は、投資対象です。プレゼンをしてこういう映画を作ります。幾らかかりますっていうんで、投資を募る。そうやって韓国の映画業界は大きくなったのです。しかし、映画人の僕から見て「映画が投資対象」という事実に対して複雑な想いを抱いています。

日本で作られる映画本数は、約650本。韓国が200本なんで、日本は格段に多い。韓国は作られる本数が少ないので、1本当たりの単価が高い。で、日本の場合、600本作られてるうちの95%は、赤字なんじゃないかな。だから、よっぽど映画が好きで趣味でないとお金を出さない実情が土壌にあるんです。


未来に向けた日本映画の課題は「スタッフ待遇と高齢化」

谷本:日本の映画業界における課題って、どんなところにあるのでしょうか?

是枝:監督としては、現場で働いてるスタッフ達が、趣味的な賃金で長時間労働を強いられている状況をなんとか改善したいです。そして、もうひとつの切実な課題は、若い人が、映画を職場として選んでくれなくなってる事によるスタッフの高齢化です。

『万引き家族』という映画が僕の映画の中で、最も沢山のお客さんが観てくれて、国内収益だけで47億円ぐらい。大ヒット映画でしたが、最初に企画のプレゼンをした段階では、題材が万引きで、暗い映画だから関係者の反応は今ひとつ。だけど、僕は、「予算は少なくていいのでやらせてほしい」って関係者を説得しました。「前作品の3分の1の予算でやりますから、好きにやらせてください」とプレゼンをした。そんな低予算で作った映画が、結果的に、過去一の興行収益を上げて、海外での賞も受賞して、ビジネス的にも大成功でした。でもこんなこと誰も予測できないんですよ。
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文=中村麻美

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