この損失を嘆く人もいるかもしれないが、長く悲嘆する必要はない。第47旅団にはまだ30両のM1が残っている。ウクライナ軍全体では、2年間で700両に上る戦車を失ったにもかかわらず、なお2000両ほどの戦車がある。
つまりウクライナは、2022年2月にロシアの全面侵攻を受ける前とほぼ同数の戦車を現在保有しているということだ。西側の支援諸国から供与された数百両と、ロシア軍から鹵獲した数百両が、2年にわたる激戦での損失分を補って余るかたちになっている。M1の初損失を祝うロシア側のプロパガンダは無視していい。不死身の戦車などない。ほとんどの戦車は上面を攻撃する「トップアタック」にとりわけ弱い。唯一例外があるとすれば、スウェーデン製のストリッツヴァグン(Strv)122戦車だろう。この戦車は砲塔のルーフ(屋根)に追加装甲が施されている。
そのStrv122ですら攻撃に対して無敵というわけではない。ウクライナはスウェーデンから入手した10両のStrv122のうち1両を撃破され、数両を遺棄している。後者はウクライナ軍の工兵によって回収された可能性はある。
M1の損失によって、ウクライナ軍は保有する西側製ないし西側と旧ソ連のハイブリッド型の戦車のほとんどで、少なくとも1両を失ったことになる。オランダのOSINT(オープンソース・インテリジェンス)分析サイト「Oryx(オリックス)」の集計によれば、M1やStrv122以外では、旧ソ連のT-55戦車を改修したスロベニア製M-55S戦車28両のうち1両、ドイツ製レオパルト2A4戦車40両(追加で14両が供与される予定)のうち8両、同レオパルト2A6戦車21両のうち5両などが失われている。(編集注:このほか英国製チャレンジャー2戦車14両のうち1両も撃破されている)
ウクライナのおよそ1000kmにおよぶ前線で、これまでに撃破や遺棄が確認されていない西側製戦車は、ウクライナが計200両近くを受け取る予定のドイツ製レオパルト1A5戦車だけだ。
レオパルト1A5がドローンに仕留められるのも時間の問題だろう。双方が毎月何万機ものドローンを飛ばし、防空やジャミング(電波妨害)が追いついていない現状では、安全な戦車というものは存在しないのだ。
(forbes.com 原文)