2023年10月、ウクライナ海兵隊の第35独立海兵旅団の海兵らはドニプロ川を渡り、ぬかるんだ東岸の小さな漁村クリンキに橋頭堡を築いた。
数に勝る海兵隊部隊は、攻撃ではドローン(無人機)チーム、防衛ではジャミング(電波妨害)による支援を受けながら、東岸で第810旅団を打ちのめす。第810旅団は20カ月で3度目となる大敗を喫した。
ドニプロ川東岸に展開しているロシア軍部隊(第810旅団のほか、第104親衛空挺師団、付属の陸軍連隊)は、これまでに少なくとも戦車19両を含む車両157両を失っている。
第810旅団はおそらく、戦車大隊に当初配備されていた戦車30数両をすべて失い、何度か補充しているだろう。ロシアが重量43t、乗員3人のT-80を、第810旅団の損失を補えるほどのペースで生産できていないのは明らかだ。
これは驚くに当たらない。OSINT(オープンソース・インテリジェンス)グループのOryx(オリックス)によれば、ロシア軍は全面戦争の開始後、これまでにさまざまな戦車を合計で約2500両も失っている。これは全面戦争前にロシア軍で就役していた戦車の総数にほぼ匹敵する。
ロシアは2022〜23年に、損失分を補充するため少なくとも2000両の戦車を製造するか保管分を現役復帰させている。しかし、このうち数百両は1960年代にさかのぼるT-62戦車や、さらに古いT-55が占める。
これら老朽化した戦車の一部は、前線に送り込まれる前にささやかな改修が施されたが、第810旅団のT-55の少なくとも一部はそれすらなかった。重量36t、乗員4人のそれらのT-55は、元の100mmライフル砲や赤外線暗視装置、装甲のままで、爆発反応装甲などは追加されていない。
画像を見る限り、追加されたのは、爆発物を積んだドローンへの備えとして砲塔に溶接された粗雑な覆いだけのようだ。
1980年代の装備に退行した第810旅団は、ロシア軍全体の縮図でもある。兵士や車両の損耗がウクライナ側の3〜4倍にのぼる消耗戦を2年近く続けてきたロシア軍は、手当たり次第に兵士や装備をかき集めることで、どうにか前線の兵力を維持している。
新兵は質が下がり、年齢は上がっているうえに、訓練は短縮され、装備も古いものをあてがわれる。第810旅団はかつては「精鋭」だったかもしれないが、今では博物館に所蔵されるレベルの戦車に乗る、ろくな訓練も受けていない烏合の衆に成り下がっている。
(forbes.com 原文)