欧州

2024.02.03 11:00

2度壊滅したロシア軍旅団がゾンビのように復活 70年前のボロ戦車引っさげ

安井克至

旧ソ連の主力戦車T-55。2020年10月、ロシア西部ヒムキの公園で(smith371 / Shutterstock.com)

1980年、ウクライナ南部クリミア半島セバストポリを拠点とするソ連海軍第810独立親衛海軍歩兵旅団は、1950年代に登場したT-55戦車を1個大隊分保有していた。

時は下り、侵攻先のウクライナ南部ヘルソン州で戦うロシア海軍第810独立親衛海軍歩兵旅団は、やはり1950年代の古式ゆかしいT-55を1個大隊分配備されている。

さすがに、これらのT-55は同じものではない。ロシアが2022年2月にウクライナに対する全面戦争を開始した時、第810旅団はそこそこ現代的なT-80戦車を運用していた。だが、その後のウクライナ軍との戦いで第810旅団は2度にわたり壊滅し、多くのT-80も失った。

そのため、第810旅団はロシア軍のほかのほとんどの部隊と同じように、長らく保管されていた倉庫から引っ張り出された古い兵器を再配備されたのだった。第810旅団のT-55は最近、ロシアの国営テレビ局「ズベズダ」の報道映像に姿を見せている

第810旅団が1980年代に舞い戻ったかのような装備をするに至った経緯は、別に秘密でもなんでもない。2500人規模で「精鋭」部隊と目されていた第810旅団は、ウクライナ軍が最初の大規模な反転攻勢に乗り出した2022年秋、ヘルソン州の北部に配置されていた。

だが2022年9月半ばには、ウクライナ軍参謀本部の主張に従えば第810旅団の兵力は当初の15%まで減り、生き残っている兵士も戦うのを拒むという惨状を呈した。

2022年末から2023年初めにかけて第810旅団は再編され、ウクライナ南部に再配置された。場所は、今度はヘルソン州の東隣のザポリージャ州だった。

2023年6月、ウクライナ軍は2年で2回目となる反転攻勢を開始する。塹壕や地雷原を越えていく反攻はなかなか進まず、大きな損害も出したが、それでも反攻前の前線から南へ80kmほどに位置するロシア占領下のメリトポリに向けて、15kmかそこら前進した。

ウクライナ側はこの反攻で人員を数千人損耗し、車両を数百両失った。一方で「攻撃する側は防御する側よりも大きな損害を出す」という歴史の通例に反し、攻撃側のウクライナ軍は防御側のロシア軍に同程度の損害を与えている。

第810旅団はウクライナ軍に壊滅させられた。ウクライナ国防省情報総局のキリロ・ブダノウ局長は2023年9月、軍事情報サイト「ザ・ウォー・ゾーン」のインタビューで、第810旅団は「完全に敗北し、完全に粉砕された」と述べている。

ザポリージャ州では代わりにロシア空挺軍の部隊が投入され、第810旅団は再び再建されることになった。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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