「慎重な楽観主義」が人生をより幸せにする

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心理療法を受けに来る人の多くは、自分の生き方への失望感に絶えず苛まれている。いくら頑張っても自分の期待通りにいくことはほとんどなく、希望と幻滅が繰りかえされるのはなぜなのか。よく聞くのは次のような言葉だ。

「万事正しく、すべてルールを守ってやってきたのに、思ったようなキャリアを築けていない」
「どれだけ努力しても、いつも人間関係がうまくいかない」
「運動して健康的な食事をしているが、フィットネスの目標を達成できない」

こうした気持ちを抱いたことがある人は、実はもう目標達成までの道のりを半分は進んでいる。ひたむきな努力と頑張りこそ、成果を得られることへの楽観と信頼の証なのだ。この楽観主義は、人を前進させる強い力となる。

とはいえ、期待をコントロールすることも重要だ。意思決定や計画の立て方に「慎重な楽観主義」の要素を取り入れると、状況が一変し、幸福感と満足感を高めることができる。

慎重な楽観主義とは、要するに「最良の結果を望みつつも、最良の結果だけに期待をかけない」こと。楽観主義と現実主義のバランスを取ることである。

物事の捉え方を「コップに水が半分しか入っていない」から「半分も水が入っている」に変え、人生が思いどおりにいかなくても目標を見失わないようにすることで、ウェルビーイング(精神的・身体的・社会的に満ち足りた状態)と幸福感を最大化できる。科学的裏付けのある考え方のヒントを二つ紹介しよう。

1. 目標達成から得られる幸福感はすぐ消える

ずっと欲しかったものをついに買ったときのことを思い出してみよう。その喜びはどれくらい長続きしただろうか。1日か、1週間か。中には1カ月続いたという人もいるかもしれない。

多くの場合、何かを成し遂げたときの興奮はすぐに消えてしまい、私たちは「もっと欲しい」という際限のない欲望の輪の中に取り残される。これは「ヘドニック・トレッドミル」(快楽順応)と呼ばれる現象だ。良い出来事の後、幸福度はすぐに元のレベルに戻ってしまう。

この現象は科学的に立証されている。神経科学の専門誌『Brain Research Reviews』に掲載された有名な研究論文によると、快楽に関わる神経伝達物質であるドーパミンは、報酬を得ることそのものよりも、報酬を追い求める動機付けに大きな役割を果たしていることがわかった。平たく言えば、私たちは目的地に到達することではなく、旅することそのものからより多くの喜びを得るのだ。

ドーパミンのこの役割を理解することは、最終的な結果を重視しすぎず、目標に向かう旅を楽しむことを奨励する「慎重な楽観主義」の概念に直結する。これは次の考え方につながる。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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