欧州

2024.01.05 10:00

橋頭堡攻めあぐねるロシア軍、80年前の特攻戦術「ジューコフ機動」命令

遠藤宗生

2022年10月、ロシア西部タタールスタンで戦闘訓練を受ける動員兵(Kosmogenez / Shutterstock.com)

ロシア軍はこの10週間、ウクライナ南部ヘルソン州のドニプロ川左岸(東岸)の橋頭堡(きょうとうほ)に張り付いている数百人のウクライナ海兵を排除しようと数万人規模の兵力を投入してきたが、これまで排除に失敗している。ドニプロ川左岸は、橋頭堡がある川沿いの集落クリンキ一帯以外はロシア軍の支配下にある。

クリンキでの戦いについて、西側メディアはウクライナの海兵隊員にとって「自殺任務」のようなものだと伝えている。だが、ぬかるんだこの漁村や隣接する森林の周囲に設けられた地雷原に無謀にも突っ込んでは、100人単位で死んでいるのはロシア兵だ。

驚くべきことに、ウクライナ側は兵員数で劣りながら、火砲とドローン(無人機)に関しては局所的な優勢を確保している。まず電波妨害(ジャミング)によってロシア側のドローンを飛べなくさせ、次に自分たちのドローンを飛ばし、敵のりゅう弾砲やロケットランチャーを探し出して破壊していく、という方法によってだ。

「ロシア軍はクリンキを引き続き激しく攻撃している」。軍事アナリストのトム・クーパーが運営する1日1日のニューズレターで、同僚のドナルド・ヒルはそう解説。「ある攻撃では森林を突き進み、クリンキに足場を築いた。しかし、ウクライナ側はロシア側に占拠された家屋のがれきを砲撃で吹き飛ばし、防衛線をすべて取り戻した」と続けている。

ヒルが言及しているものと同じかもしれないが、最近のある攻撃はロシア軍の空挺部隊の軍事ブロガーから見ても特にひどいものだった。「天候はわが軍に味方していたが、敵の砲兵はなお戦術的優位に立っていた」とこのブロガーは述べている。

そのうえで「80年前と同じように、ジューコフ機動を敢行して敵を撃破せよとの命令が下された」と明かしている。第2次世界大戦中、ソ連軍のゲオルギー・ジューコフ将軍は、自軍の兵士にドイツ軍の地雷原を徒歩で越えるように命じて切り開かせたとされ、悪名高い。

ヒルによれば、ウクライナ側は夜の闇に紛れてクリンキ周辺の地雷原を補充している。「ウクライナのドローンは夜間、道路に地雷を投下し、トラックなどの車両を走行不能にしている。朝になると、車両が回収される前に弾薬を投下してとどめを刺す」という。

前出のブロガーは、ロシア空挺軍の第104親衛空挺師団がジューコフ方式で地雷原の突破を図った結果、「かけがえのない専門兵たちを失った」一方で、「戦場の状況は変わらなかった」と記している。

ウクライナでの戦争が長期的な消耗戦に移りつつあるなか、攻撃が失敗するたびにロシア側の損耗は膨らみ、ウクライナ側は全体として優位になる。ロシア軍はクリンキ周辺で昨年10月14日以降、戦車や装甲戦闘車両など各種装備を143失っている。これに対して、ウクライナ軍の装備の損失数は25にとどまっている。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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