欧州

2023.12.12

徒歩で突撃のロシア歩兵、ウクライナは戦車で迎撃 東部激戦地

ウクライナ軍のT-64戦車。2020年2月、キーウ地域で(Artem Grebenyuk / Shutterstock.com)

ロシアがウクライナで拡大した戦争が3年目に入ろうとするなか、両国のほとんどの戦車は戦車本来の戦い方をしなくなっている。ドローン(無人機)や砲門につけ回され、地雷に取り囲まれている両軍の戦車は、前線の数km後方にとどまり、主砲の角度を上げ、乗員からは見えない目標に向けて射撃することが多くなっている。言い換えると、戦車はりゅう弾砲のような使われ方をしている。

だが、ある重要な戦域はその例外だ。ウクライナ東部ドネツク州にあるウクライナ軍の要衝、アウジーイウカ方面である。ロシア軍はこの2カ月、占領しているドネツク市のすぐ北西にあるこの町を攻略するため、使える連隊や旅団をこぞって投入してきた。

ウクライナ側は、進撃してくるロシア軍部隊に代償を払わせるため、戦車を配備した。そして、これらの戦車はまさしく戦車の戦い方をしている。ミサイルなどの攻撃にさらされながら、ロシア軍の突撃部隊に接近し、砲撃を加えているのだ。

「戦車のおかげで防衛線を維持できています」。あるウクライナ兵はトルコの国営アナドル通信の取材にそう語っている。

先週、ソーシャルメディアで共有された映像は、ウクライナ軍の戦車によるこうした反撃の様子を捉えていた。ドローンから撮影されたこの動画では、アウジーイウカの北翼にある巨大なコークス工場のすぐ東で、ウクライナ軍の第116独立機械化旅団に所属する戦車が、家屋に立てこもるロシア軍の歩兵チームに迫っている。

T-64と見受けられる戦車は、簡単にロシア軍に狙われないように、急速に前進しては後退、そしてまた前進という動きをとりながら、主砲の125mm滑空砲で数回射撃し、いくつかの建物を破壊していく。途中、ロシア側から対戦車ミサイルとみられる攻撃に見舞われるが、すんでのところで被弾を免れている。最終的にロシア軍の歩兵は負けを悟ったらしく、家屋からそそくさと徒歩で逃げ出している。

この小競り合いは、機動性、火力、防護という戦車の強みをまざまざと示している。同時に、歩兵は塹壕(ざんごう)に身を隠せなかったり、味方の戦車による支援がなかったりした場合、戦車の攻撃にどれほど弱いかということも露わにしている。

アウジーイウカ方面に展開している総勢4万人とされるロシア軍部隊も、戦車などの装甲車両を保有していないわけではない。事実、最近は戦車同士の一騎打ちという珍しい一幕もあった。

しかし、ロシア側は、攻撃に際して長い車列を組むのはあまりに脆弱(ぜいじゃく)だということを、アウジーイウカ周辺で大きな犠牲を払って学んだ。攻略戦の最初の1カ月、ロシア軍はアウジーイウカに向けて次々に縦隊を送り込んでは、ウクライナ側が町の南と東、北に用意していたキルゾーンで仕留められた。

ウクライナ側の地雷や大砲、ドローンによる攻撃で、ロシア軍の縦隊は戦車や歩兵戦闘車、その他の車両を合計で数百両失った。11月中旬、ロシア軍の指揮官は戦術を変更し、歩兵を車両から降ろして戦わせるようになる。これは、ウクライナ軍が今夏、下車した少人数の歩兵チームで成功を収めたのを参考にしたのかもしれない。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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