欧州

2023.12.08 12:30

激戦地アウジーイウカで戦車同士が一騎打ち ウクライナ軍は最高の戦車旅団投入か

遠藤宗生

ウクライナ軍のT-64戦車。2020年2月、ウクライナ・キーウ州で(Artem Grebenyuk / Shutterstock.com)

ロシアがウクライナで拡大して22カ月目に入っている戦争でも、戦車同士が戦うというのはまれだ。だが、まったくないというわけではない。

最近、ウクライナ東部ドネツク州アウジーイウカのすぐ北と見受けられる戦場で、戦車対戦車の対決があった。ウクライナ軍のドローン(無人機)が上空から見守るなか、ウクライナ軍のT-64戦車とロシア軍のT-72B3戦車が互いに相手のほうにじりじりと近づいていく。

いずれも旧ソ連で設計された古い2両の戦車は、樹林帯の間から、こちらもほぼ同じものと言っていい主砲の125mm滑空砲を数発応酬する。だが互いに外し、最終的にロシア軍のT-72B3は煙幕を張って後退する。

すると、狙いすましていたらしいウクライナ軍の自爆ドローンがT-72B3に突っ込む。T-72B3は砲塔に傷を負いながらも、どうにか生き延びたようだ。

今回の戦車対決が注目に値するのは、ひとつにはやはり珍しいからだ。ウクライナの戦場では、戦車は通常、敵の塹壕(ざんごう)に対する歩兵の攻撃を先導するか、ある程度離れた距離から敵の陣地に向けて射撃を行うという運用をされている。とくに後者のような使い方が多い。

注目すべき理由はもうひとつある。それは、ウクライナ側のT-64は第1独立戦車旅団の所属かもしれないという点だ。第1戦車旅団はウクライナ軍に5個ある戦車旅団のなかで最も実戦経験が豊富で、ロシアによる全面侵攻の初期にウクライナ北部の都市チェルニヒウを防衛したことでも有名だ。

この防衛戦では、首都キーウの北100kmほどに位置するチェルニヒウの周辺の森に潜んだ第1戦車旅団のT-64BV(T-64の改良版)が、付近を通過するロシア軍の縦隊を近距離から攻撃した。

「ウクライナ軍の戦車乗員は(ロシア側よりも)よく訓練されていたうえ、自軍の装備でも対抗できる近距離の交戦で、T-64の自動装填装置が高速だったこともあり、不意をつかれたロシア軍部隊に多大な損害を与えることができた」。英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の研究で、著者のミハイロ・ザブロツキー、ジャック・ワトリング、オレクサンドル・ダニリョク、ニック・レイノルズはそう解説している。

6週間にわたるチェルニヒウ防衛戦は成功したものの、第1戦車旅団も大きな損害を被った。同旅団の兵士2000人のうち、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が戦功をたたえて表彰したのは1000人にのぼる。

ウクライナ軍の反撃で2022年3〜4月にロシア侵略軍がウクライナ北部から撤退したあと、第1戦車旅団は引き揚げて長期の休養と補充に入った。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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